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様々なメディアで紹介される「機材の使い方」ではなく、「録音のノウハウ」をレコーディングエンジニアが紹介。大型スタジオではなく、小規模スタジオ、お世辞にも良いとはいえない機材環境で生き抜いたが故に身に着けた、与えられた機材で自分の求める音を出すためのテクニックを、自由気ままに紹介します。 動画がスタンダードになって久しい世の中。想像力を使うことも音楽制作の楽しみという考え方から、基本はテキストでの紹介。どんな音がするのか?自分の環境でどう活用するか?想像する力を、あなたはまだ持っていますか?

タグ:エフェクト

だいぶ空きました、すいません。

全体の音圧っていうのは結構誰でも注目するもので、他の一般的な音源と合わせて聞いた時に大きな音量差が出ないように意識すると思います。単純に自分の音源だけ音が小さく聞こえるとなんとなくさみしいですしね。普通のJ-POPを聞いている一般リスナーは音楽のダイナミックレンジまで意識しないで聞くので、小さく聞こえると聞いてもらえなかったりすることもあるので、ある程度は考えておく必要がありますね。

で、以外と忘れがち、考えられていないのが左右の音圧レベルについてです。
これは考えられていなくてもいいといえばいいんですが、知っておく必要はあるかなと思います。


例えばある楽曲のミキシングにおいてパワーコード主体のディストーションギターを左に、ストリングスを左右に振り切ってパンニングしたとします。この状態でスピーカーで聞くと、まぁ普通ですよね。


で、ヘッドホンで聞いてみましょう。


まぁ1回くらいは大丈夫ですし、気にしない人は最後まで気にしないと思いますが、このミキシング、聞いていると多分疲れるんです


何故かというと、左のディストーションギターが絶え間なく左耳を押してくるからなんです。押してくるという表現が正しいかわかりませんけど。かつ、右には何も単体楽器がいない状態なので、左側の圧力だけが常時高くなってしまうんですね。


まぁこういう表現だといえばそれまでなんですが、やっぱり聞きやすい、たくさん聞いてもらえる音にした方がいいことは多いと思います。そういう時に考えるのが、左右の音圧です。これは音作りだけでなく、アレンジや楽器の音の特性もある程度理解していないと難しいかもしれません。


かんたんに言うと、左右の楽器や音の配置は、ある程度左右対称に配置していったほうが聞きやすくなる、ということです。気になってしまった時の対策はいくつかありますので、参考にしていただければと思います。


#1 楽器の配置を均等になるように配置する
最も簡単な方法です。左にディストーションギターを配置したら、右にはアコースティックギターとか、オルガンとか。ずっと鳴っている楽器が左にあったら、右にも似たような役割を持つパートを配置するという手法です。


楽曲を聞いて、それぞれのパートの役割を理解していけば、あまり考えなくてもできるようになると思います。ま、単純に定常的に鳴っているギターパートが3本あったら、3本とも左にパンニングするケースは少ないですよね?そういうことです。


ライブ音源などの場合は、メンバーの位置が固定されているのであまり動かせませんが、普通のレコーディング音源の場合は左右配置は結構自由にできると思います。ですので、左右の配置がある程度均等に、バランスが取れるように配置してみてください。


#2 反対側に音圧調整用の音をエフェクターで作って配置する
これは楽器の数が少ない場合や、ずっと鳴っているパートが少なくバランスが取りづらい場合に使えます。先程例に出したディストーションギターなどに有効な方法です。


ギターでしたら、ディレイが使えます。
ギター本体は左に、ウエット100%のディレイをかけた音を右に配置してください。ディレイタイムはものすごく短くていいです。多分5ms以下でいいかなと思います。


この状態で再生すると、ギターはどこから聞こえるでしょうか??


そう、左から聞こえるんです。
何故かというと、人間の耳は同じ音であれば先に聞こえた方にいると錯覚するので、左に聞こえます。

つまり、「左に配置したい!」という意思を反映しながら、左右の音圧調整ができます。実際には左右から音が出ていますので左右両方の耳が使われる状態になり、「押されている感」は左右均等になり、結果、片側からだけ出ているときよりも聞きやすく感じます。でも、左から聞こえます。


弱点は聞こえていない音で全体の音の容量を消費してしまいますので、パート数が多くミキシングが苦労するような楽曲では使えません。そういう場合は、パートがたくさんあると思いますので、#1の方法で反対側に配置すべきパートを見つけて、左右の楽器配置でコントロールするのが良いと思います。


#3 ステレオイメージングエフェクトを使ってステレオ化してコントロールする
#2の場合は、左に聞こえているようにしながら左右の音圧調整をする技でした。#3は、左右から聞こえている状態にしてしまいましょうという技です。


プラグインにステレオイメージング系のエフェクトというのがあります。
何種類かありますが、どれでも使えます。その名もずばりのステレオ化エフェクト、コーラス、フランジャー、フェイザー、などですね。


モノラルの音源に対しこれらのエフェクトをかけると出力はステレオになりますので、モノの時と異なり左右どちらにも音を出すことができます。ただし、原音を大きく変える目的でエフェクトをかけるわけではないので、パラメーターは薄めに設定するのがコツですね。コーラスであればレートなゆっくりに、デプスは浅めに設定します。


欠点は、このまま出すとセンターを中心にしたステレオになってしまうので、ボーカルなどのセンター配置パートの邪魔をすることがあります。左右どちらかに多少ずらして配置すると良いかなと思います。L80%R30%くらいにすると、やや左に配置されたままステレオになります。


もう一つの欠点は、元の音源より聞こえにくくなります。なぜかというとこれらのエフェクトをかけると位相が崩れますので、当然原音より前に出にくくなります。ですので、リードパートにはこの技は使えません






と、いうことで、左右の音圧差について考えておくと聞いていても疲れない音にできます、という回でした。他の技と一緒で、全部の楽曲に対してやる必要はないと思います。が、知識として知っておくといいかなと思います。特に最近はスピーカーよりもヘッドホン、イヤホンで聞くことの方が多いので、スピーカーで聞いても大丈夫だからいいや、というわけにはいかないと思います。左右音圧差の問題は、スピーカーよりもヘッドホンで顕著に起こりますので、昔よりも気にしなければいけないポイントだと考えています。

この問題、まずリスナーは気が付かない問題なんです。なんで疲れるかはわからないけど、なんとなく聞きにくい、疲れるという状態になってしまいます。ですので、音のことをリスナーより少しだけ知っている、音を作る側の人間が気にしてあげないといけないことかなと、筆者は思っています。余談でした。

だいぶ間が空いてしまいましたが、気にせず次のネタにいきます。


最近ではプラグインやアンプシミュレーターが発達したので、エレキギターをライン録りする機会が増えました。
自宅どころか、レコーディングスタジオで録音していても好きなアンプを好きなように鳴らせるという環境はなかなかありませんから、これらのアンプの音を出す道具は正直かなり便利です。


筆者もギタリストではありませんが、LINE6のPODを持っています。
出た当時ギタリストがレコーディングに持ってきて感動し、楽器屋で購入しました。
今でも現役で使っています。既にかなり型落ちですが、、、。今はPOD2でしょうか。


さてさて、その後はハードウェアだけでなくプラグインのシミュレータ関係もかなり発達しました。
PODを持っていたので当然プラグインでもLINE6 AMP FARMはかなり使いました。

これらのアンプシミュレーションエフェクトを使ってきて、当然色々研究しました。


ある簡単なことをするだけで、飛躍的にギターサウンドをクリアに、抜けの良いものにできる方法があります。


この技は、どのアンプシミュレーションエフェクトでも使うことができる優れものです。

しかも、アンプシミュレーションエフェクトに限らず、ギターをライン録音して後からエフェクト処理する場合、どのエフェクトに対しても有効です。



方法は非常に簡単。



ライン入力のギターを録音したトラックに対し、コンプレッサーのエフェクトをかけるだけです。


順番の問題で、ギター(ライン)のトラックでは、どのプラグインよりも先にコンプレッサーをかけるのが最大のポイントになります。


コンプレッサーの種類は、はっきりいって何でも大丈夫です。
DAWに最初からついているようなもの、非常にシンプルなコンプレッサーでも十分効果が得られます。


コンプレッサーの設定は特別な設定は必要ありませんが、比較的アグレッシブに潰した方が効果がわかりやすいです。


どの音に対してもコンプレッションがかかるようなスレッショルド設定が良いと思います。
レシオは強めに8:1以上とかで良いでしょう。
アタック、リリースタイムは双方ギターのアタックとリリースに対応するためかなり早めの設定にします。
強めにコンプレッションしていますので、当然出力レベルはアップする方向に調整してください。
DAWで言えば、コンプレッサーを通った後のレベルが-6dB以上、逆に言えばメーターが振り切れない程度までコンプレッサーの出力レベルを上げてください。


このコンプレッサーの後段に、アンプシミュレーションエフェクトを入れます。
お好みのアンプを選んで、歪みサウンドを作ってみてください。



どうでしょうか?



わかりにくければ、コンプレッサーをON/OFFしてみてください。

音のエッジの立ち方などが明らかに違うはずです。

ハードなディストーションサウンドがわかりやすいと思いますが、メロウなクランチ系、オーバードライブ系のサウンドでもヌケの良さが全然違うと思います。


ということで、非常に簡単かつ効果の高い技ですので是非試してみてください。


やり方がご理解いただけたら、次からはコンプレッサーとシミュレータを両方ONにした状態で、コンプレッサーの調整をすることをお勧めします。
この方が、的確な調整が出来ます。
ラインの音を聞きながらやってもペケペケで面白くありませんので(苦笑)。


仕組みとしては、推測ですが、こういったギターアンプシミュレーションエフェクトは、比較的いいギターやいいラインの音を基準にエフェクトが仕上げられているのではないかと思います。

元にしているギターが、エピフォンではなくGibson、Fender JapanではなくUS、変なギターではなくPRSを元にエフェクトサウンドを仕上げているのではないかという事です。良く考えれば当たり前ですね。。。


従って、ある程度整った音が入力されたときに初めて、本来のサウンドになるのではないか?と推測しています。


ここから先は応用編ですが、この原理を理解するとアンプシミュレーションエフェクトでの音作りが非常に楽になります。


単純な話ですが、アンプシミュレーションエフェクト本体で音を作るよりも、エフェクトに入力される音を加工した方が狙った音になりやすく、シャープでヌケが良く、コントロールしやすいのです。


ギタリストの場合、エフェクト(アンプ)の方でイコライジングをしたくなると思いますが、ギターアンプのイコライザーははっきり行って飛び道具です。音域調整には向きません。実物もその傾向があります。


先ほどはコンプレッサーでしたが、そのあとにイコライザーを入れます。
イコライザーの後が、アンプシミュレーションエフェクトです。

アンプはお好みのものを選び、コンプレッサーは先ほどの通りにかけます。
イコライザーもいじってみてください。

そう、驚くほどアンプサウンドがはっきり変化するのです。
ギターアンプのイコライザーとは全く異なる変わり方をするはずです。

アンプサウンドの高域を上げたかったらアンプより前段で加工した方が狙い通りになるのです。
低音など、他の帯域も同様です。

アンプの後にイコライザーを入れることもありますが、イコライザーがかかった音をアンプシミュレーションエフェクトに通したほうが、自然とまとまった音になるような気がします。


結論的には、プラグインのアンプシミュレータなどを使う場合は、そのシミュレーションエフェクトより前段で音を作ってしまうという事になります。シミュレーション(アンプ)は、歪み担当ということですね。


ギタリストの方でしたら、レコーディングに限らずライブでの音作りでもかなり応用が効くと思います。

大切なのは、アンプに入る音のクオリティを上げるという事です。
ラインの音を調整して、いいギターのライン音と同じクオリティにしてしまう、ということですね。

あとはいいアンプがあれば、勝手にいい感じに歪んでくれます。


余談ですが、この技に気がついた時、昔のミュージシャンの楽器はやっぱりいい楽器だったんだろうなと思いました。
最近はそこそこの楽器がリーズナブルな価格で手に入れられるようになりました。
特にギターは人口が多いこともあり、価格の安いギターでもいいアンプに突っ込んで歪ませてしまえばそれっぽく聞こえます。
しかし、いいギターは、やっぱりギターから出ている音そのもののクオリティが高いという事です。


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ミキシングの3種の神器というのはご存知でしょうか。
最低限これがあればミキシングできる、という3種類のエフェクターです。


3種の神器は、ディレイ、リバーブ、イコライザーだと言われています。
筆者もこれに同意で、ミキシングをお願いされたら最低限この3つは確保します。
それぞれブランドなどの好みはありますが、最低限、ということであればブランドも問わずとにかくこの3種類のエフェクトを確保します。

このうち、最もなじみ深いものがリバーブでしょう。
カラオケではエコーとして扱われています。
※正確にはカラオケのエコーはディレイとリバーブが混ざった複合的なものです。

リバーブは一般的にはセンドリターン形式で使うのがセオリーです。
もろもろ理由はあると思いますが、複数のトラックで同じリバーブを使ったほうがコントロールしやすく、良い響きを得やすいというのが大きい理由です。

昨今のDAWベースのミキシングの場合は、パソコンの負荷の兼ね合いもあります。
リバーブは最もパソコンのパワーを消費するエフェクトであるため、できるだけ使う数を抑えたい、という事ですね。

さてさてリバーブをセンドリターン形式で使う場合、簡単によりクリアな響きを得る方法がありますのでご紹介しましょう。

リバーブEQと呼んでいる技です。
リバーブをかけてみたものの、響いているだけであまり綺麗に聞こえない場合などに有効です。
筆者の場合、ほぼすべての曲で使っている技です。

センドリターン形式で使っている場合、音が録音されたトラックと別にAUXトラック(バス)をつくり、そこにリバーブエフェクトをインサートして使います。
このリバーブの後段にイコライザーを入れて、リバーブの響きの成分のうち、不要と思われる成分をカットしていく手法です。

イコライザーの種類はなんでもかまわないのですが、パラメトリック形式でイコライジングでき、かつ4バンド程度のものが適しています。

とはいうものの、ミックス全体を聞きながらリバーブの音質調整をするのは実はすごく難しいのです。

リバーブは本来対象の音とリバーブ成分が混ざった状態で、かつミックス全体の中でバランスを調整するものですが、リバーブEQを行う場合は、リバーブ単体、つまり響きの成分だけを聞きながらイコライジングするのがポイントです。

また、ある程度ミックスが完成してから行ってください
途中段階でこの技を使うと、後からリバーブに送られてくる音が激しく変化してしまい、最大の効果を得ることが出来ません。


方法は簡単で、まず新しいステレオトラックを作成します。

リバーブトラックの出力先をこの新しく作成したステレオトラックに指定します。
この状態でステレオトラックを録音すると、リバーブの音を録音することが出来ます。 

この手法で、曲の最初から最後まで、リバーブの音だけを録音したトラックを作りましょう。 

この録音されたトラックをソロにして聞いてみると、リバーブの音だけを聞くことが出来ます。
このトラックにイコライザーをインサートして、イコライジングします。

イコライジングのコツとしては、普通のトラックと同じ感覚で、リバーブ成分だけ聞いても気持ちよい音となるようにイコライザーで音を作っていきます。

多くの場合はピーキングEQで音が溜まっている帯域をカットしていくと良い感じになります。
ポイントの探し方は、イコライザーでブーストしてみて、気持ちよいポイント、気持ち悪いポイントがあると思いますので、気持ち悪いと感じた場所をカットしていきます。

多くの場合低域もさほど必要ありませんから、200Hz以下は切ってしまっていいと思います。
(バスドラムやベース、ピアノ単体の楽曲など、低域に対してリバーブをかけたい場合を除きます)

良い感じにイコライザーが設定できたら、このイコライザーをリバーブトラックにコピーします。
もしくは、プラグインエフェクトを移動してしまってもかまいません。
多くのDAWではプラグインをドラッグアンドドロップすると移動できます。

コピーできたら、リバーブ音を録音したステレオトラックはミュートするか、非アクティブ化してしまいましょう。

あと、リバーブトラックの出力先をメイン出力に戻すのを忘れないでください。
忘れても音が出ないだけですが、、、、苦笑


これで、他のトラックと一緒に再生してみてください。

どうでしょう?

かなりスッキリして聞きやすくなったのではないかと思います。
このように、リバーブは、実は楽曲に対していらない響きも多く含まれているのです。



これがリバーブEQという技ですが、これと一緒に使うと有効な技がありますのであわせてご紹介。

リバーブを固定するという技です。
これはDAWでのミキシングに限られますが、リバーブはパソコンの負荷が大きく、逆に言えばパソコンの状態によって音質が変わってしまう傾向があります。

単純には、パソコンが忙しいときは本来の音が出ないことがあるという事です。

これも方法は簡単です。

先ほど作成したステレオトラックに、再度リバーブの音を録音します。
当然、先ほどのリバーブEQをかけたリバーブ音を録音します。

録音したら今度は、リバーブトラックそのものをミュートしてしまいます。
そして、ステレオトラックに録音されたリバーブ音を、他の音と一緒に再生するのです。

ポイントは、この録音を行う際は、パソコンの負荷を軽くしておくと高い効果が得られます。
リバーブに関係ないトラックを非アクティブにする、他のアプリケーションを終了させる、マスタートラックなどリバーブトラックより出力側に近いトラックのプラグインを非アクティブ化するなど、とにかく負荷を軽くします。

この状態で、ステレオトラックにイコライジングされたリバーブ 音を録音します。

いかがでしょう。

あまり録音していない時との変化は無いかもしれませんが、ミキシング終盤であればあるほど効果は如実に現れます。

特に、DAWのバウンス(エクスポート)機能を用いてステレオマスターを作る場合は、バウンス中が最大負荷となってしまうため、効果が大きいです。

また、このリバーブ固定後はリバーブエフェクトを非アクティブにできますので、バウンス時のパソコン負荷をかなり軽減することが出来ます。


このリバーブEQとリバーブ固定、シンプルな技ですがトラック数に関わらず効果が大きいので、是非やってみてください。 

クラウドソーシング「ランサーズ」  



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今回はボーカルを前に出す技、ふたつ目です。
ひとつ目のEQ編は#008を見てください。

#008では、ボーカルを前に出す意味についても記述しているので、こちらの記事からお読みの場合は、是非#008を読んで、前に出す意味を確認したうえで読んで頂けると嬉しいです。




さてさて。



#008 EQ編では、素直にボーカルを前に出すという技でしたが、今回の「前に出す」は、正確に言うと前に出たように演出する、という技です。ボーカルそのものは前に出さず、前に出たように錯覚させるものです。


まずは原理的なお話をしましょう。
映像的なイメージを持つと理解しやすいので、また画像を例にとってみます。



まず、人間の絵を描いたとします。
この時、人間そのものだけを描いた絵は、立体的に感じるでしょうか?



人間でなくてもいいです。
ただの立方体でも良いので、そのものだけを描いてみる、または想像してください。



どんなにうまく描けても、あまり立体的に見えないと思います。





なぜか?





それは、影が無いからです。



周りを見回してみてください。



すべてのものには、必ず影があるのです。
そう、現実の世界には影があるのです。


では、先ほどの絵に適当でも良いので影をつけてみましょう。




どうです?




たとえ絵は下手でも、立体的に見えるのではないでしょうか?




つまり、立体的に見せるには影を描けばいいのです。




音の世界でもこれと同じ考え方が通用します



ただボーカルを出している状態は、つまり影の無い絵と同じです。
このボーカルに影をつければ、ボーカルそのものに手を加えずとも立体的になる、つまり前に出たように錯覚します。



錯覚でいいのか?



錯覚でいいのです。
そもそも、音というのはそう感じているだけで存在していないのですから、すべて錯覚のようなものです。



ということで、影をつける方法をご紹介します。
これには、ディレイを使います


ディレイはモノラルでもステレオでも大丈夫で、高額なディレイエフェクトではなく、ものすごく単純なディレイでも十分効果があります

DAWの場合は、このディレイをトラックにインサートします。実はトラックインサートでなくセンドリターン形式でも構わないのですが、ボーカルにだけかけるのであればこの方法で大丈夫です。



ディレイで操作するパラメーターは、ディレイ音のタイミングを司るディレイタイム、ディレイ回数を司るフィードバック、ディレイ音の音質を調整するイコライザーの3つ、そしてドライ音とウエット音のバランスを調節するミックスバランス。これだけです。



とりあえず、ボーカルトラックをソロにしてください。
慣れればソロにしないで作り込めますが、慣れないうちはソロにして、どのような音になっているのか理解しながら音を作ってください



まずは、ミックスバランスをドライ/ウエット70/30程度にして下さい。ディレイがかかった音が3割ということですので、結構派手にディレイ音が聞こえるはずです。
 

この状態でディレイ音を作り込みます。


次にディレイタイムを190ms程度に設定します。厳密なものではありませんが、色々試してこの辺のディレイタイムが一番しっくりきました。好みに合わせて前後させてみてください。
 

次にフィードバックを設定します。多くのディレイエフェクトでは%表示ではないかと思うのですが、25%程度から始めましょう。多くすると回数が多く(長く)なります。他の楽器と合わせた時に、ディレイ成分を強くしたい時はこのフィードバックを長くするか、ミックスバランスを調整します。



この状態では、かなりディレイ音が強めに聞こえるはずです。



この状態だと、影を作るというよりはボーカルのコピーが増えているイメージになっていると思います。これを影にしていきます。



影にするには、ボーカルそのものと違う、本体よりも目立たない音質にすれば影っぽくなります#008 EQ編の応用で、ディレイ音を後ろに下げればいい訳ですね。





どうするか?





そう、イコライザーで高域をカットします。多くの空間系エフェクトはシェルビングのイコライザーを備えているので、これを使って派手に高域を削りましょう。4kHzくらいから高域を5dBとか、派手にカットしてもらった方がわかりやすいです。これは、ボーカル本体をカットするのではなく、ディレイ音のみカットするというところがポイントです。
 


さて、音はどうでしょうか?



ボーカルそのものはそのままで、後ろに影が付いたような感じになっているのではないかと思います。音量は上げていないのに、よく聞こえる感じがしないでしょうか。



ちなみにディレイにイコライザーがない場合は、センドリターン形式でディレイをかけて、ディレイのチャンネル、ディレイエフェクトの後段にイコライザーを挿せば同じようなことができます。



ボーカルトラックがソロの状態では、かなりディレイが強めに聞こえると思いますが、このままで良いです。他の楽器と合わせていくと、だんだん弱くなっていきます。



ということで、ボーカルのソロを解除しましょう。



この状態で、まだディレイ音が強いと感じる場合は、ディレイのミックスバランスを調整して、ドライ音の分量を多くしてください。



パッと聞いた感じではディレイ音が聞こえないが、ディレイがない時よりも立体感がある、という状態がベストです。後はお好みでミックスバランスやパラメータを調節してください。






これはプロフェッショナルのミキシングではかなり多用される技で、かかっているけどディレイのように聞かせないのがプロっぽいです。パッと聞くとリバーブもないドライなボーカルでも、多くの場合はディレイを用いて立体感を作っています。


ついでに言うとドライなボーカルでも、ものすごく薄く上品なリバーブがかかっていることが多いです。ディレイ+リバーブの複合技ですね。


ディレイの種類はなんでも良いので、DAWベースの場合はCPU/DSP負荷の少ない、最初からついているようなディレイで十分です。



でも余裕があれば、テープエコーをエミュレートしたようなエフェクトがあればためしにやってみてください。それはそれで面白い感じに仕上がります。

ちなみにテープエコーというのは、もともと本体の中でテープが再生されるエフェクターで、1周が閉じられた終わりのないテープが使われていました。入力音をテープに録音し、そのまま再生しますが、その時間差を調整することでディレイ音を作るものです。本物は↓のようなものですが、エミュレートされたプラグインが多く出回っています。


また、ディレイエフェクトでモジュレーション効果がかけられるような場合は、これも活用することができます。要は、ディレイ音を影っぽく、本体より目立たなくすることがポイントなので、モジュレーションを用いてディレイ音の輪郭をぼやっとさせてしまえば、これまた影っぽくなるので有効です。



色々と応用ができる技ですので、研究してみてください。#008同様に、ボーカルだけでなく立体感を持たせたいトラックにはすべて使うことができます。



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