なぜ録音ノウハウのブログで、最初の記事が録音ではないのか?
答えは簡単です。
音を聞く環境(モニター環境)が整っていないと、どんなにノウハウを尽くして録音やミキシングしたとしても、効果がよくわからないからです。効果がわからないと、楽しくありません。
低域がよく拾えるようなセッティングをしました。
でも、低域がよく聞こえない環境で聞いていたら、どうでしょうか?
いい響きのリバーブをかけました。
リバーブの残響が聞こえない環境で、どのくらいのリバーブにしたら良いかわかるでしょうか?
※リバーブ:音に響き(残響)を後付けするエフェクター。風呂場の響きをつけるような。カラオケなどのエコーとは若干中身が異なる。カラオケのエコーは、リバーブだけでなくディレイという成分も結構含まれている。
そう、モニター環境が良くないと、判断ができないのです。
判断がしっかりと出来ない環境では、第3者が聞いたときに満足のいくような音が作れないばかりか、判断に時間がかかるため作業スピードも遅くなります。
音を聞くことを音楽制作の世界では「モニターする」といいますが、もともと英語で、Monitorとつづります。監視するといった意味を持っていて、文字通り作っている音を監視するのです。
監視カメラが曇っていたら、強盗の犯人は捕まえられませんよね?
ということで、まずは自分のモニター環境を整えることが必要です。
レコーディングスタジオでは、 大音量で微細な音や低域の内容をモニターするためのラージモニタースピーカー(略してラージ、ラージモニター)、制作作業において全般的に使用するメインのスモールモニタースピーカー(略してスモール、スモールモニター)、リスナーと同じような音で聞いて確認するためのラジカセ、ヘッドホンやイヤホンで再生された場合の音を確認するヘッドホン、と少なくとも4種類のモニターを使います。
しかし、日本の住宅事情やお財布事情を考えると、これらをすべて最初から揃えるのは現実的ではないですね。筆者もラージは持っていません。まずは、ヘッドホン。次にスモールモニター。という順で揃えればよいでしょう。ラジカセはなんでも良いので、時間を見つけて探すようにしましょう。それぞれ、個別に紹介していきます。
今回はヘッドホン。
ヘッドホンモニターは昔から使われている手法で、自宅で、深夜作業などを行う場合はこれがメインのモニターになると思います。そういう意味ではヘッドホンにお金をかけるのは間違いではないと思います。使うかどうかもわからないエフェクターに投資するよりよっぽど有益です。また、ヘッドホンモニターはセッティングにノウハウを必要としないため、いいヘッドホンがあれば誰でもどこでも安定した環境を揃えることができます。
筆者もスタジオに行くときの荷物が決まっています。与えられた環境を使うのが好きなのであまり荷物はありませんが、ヘッドホンだけは持っていきます。
筆者が使っているのはこれです。
どのスタジオでもほぼ同じ音で「監視」できる道具がヘッドホンなのです。
ヘッドホンのモニターはあまりノウハウを必要としませんが、知っておいたほうが良いことはあるので、それを紹介します。
#1
いつも使うヘッドホン端子を決める
ヘッドホン端子ならどの端子でも同じ音だと思っていませんか?
違うんです。
技術的な裏づけもあり、正確に言うと、録音機やDAWから出力された音が、ヘッドホンに届くまでに通る道の状況が違うので、違う音になります。大雑把に技術的な内容を説明すると、デジタルの場合はデジタル信号をアナログ信号に変換するDAC(Digital to Analog Converter、DAコンバーター)と呼ばれる部分、アナログ化された信号を出力できるように調整するアナログ出力回路、最後にアナログ信号をヘッドホンで充分な音量とするためのヘッドホンアンプ と、大きく3つの回路を通過してヘッドホンに入ってきます。
※DAW: Digital Audio Workstation、ダウなどと読むが正確な読み方は人それぞれ。ディーエーダブリューという人も多い。今日ではパソコンで作曲、録音、ミキシングなどが統合的にできるソフトウェアを指すことが多い。ProTools, SONAR, CUBASEとかいう名前のもの。Mac標準のGarage BandもDAWといえる。
この回路の中身が機材ごとに違いますから、当然音は違う音になります。
アスファルトを通った車と、水溜りのあるダートを通った車、出てきたら汚れ方は違いますよね??
パソコンの裏か横にもヘッドホン端子があると思います。DAWで制作している方でしたらオーディオインターフェースをお使いでしょうから、そこにもヘッドホン端子があると思います。(スタジオ級のものにはないです)
試すことができれば、CDなどでよいので、同じ音源を違うヘッドホン出力で聞いてみてください。
※オーディオインターフェース:パソコンの中の音(DAWとか)を外部に出力して聞けるようにする機材。これがないとDAWがあっても音が聞けないし、録音できない。厳密には、ほとんどのパソコンがオーディオインターフェース機能を内蔵しているが、音が悪いので制作ではメインで使われない。最近はAI(Audio Interface)と略されることもある。I/Fという略も結構多い。音楽制作で単にインターフェースといったらたいていはこのオーディオインターフェースを指す。
まずは、このヘッドホン端子の音の違いを把握しておくことが大切です。そして、基本的に使うヘッドホン端子はひとつに絞ってください。これが大事。色々な場所のヘッドホン出力を使ってしまうと、その都度異なる判断になってしまうので、作る音が安定しなくなります。
# 2
ヘッドホンを使うときはスピーカーを鳴らさない
意外と、忘れるんです。
ヘッドホンを使うときに、スピーカーが鳴っていると、聞こえる音が変わってしまいます。特にオープン型のヘッドホンを使っているときは顕著です。
※オープン型:ヘッドホンの種類のひとつ。ヘッドホンの外に音が漏れる、一般リスナーには信じられないようなヘッドホン。制作で使うと耳が疲れないので結構はまる。
理屈は単純で、スピーカーから出た音がヘッドホンに当たりますから、その影響で振動(見えません)となってヘッドホンの中の音にも影響を与えてしまうのです。特に、低域で顕著です。
というわけで、ヘッドホンを使う場合はスピーカー音量を下げるのを忘れないように!
スピーカー音量と、ヘッドホン端子の音量を個別に調整できる機器があると便利です。最近のオーディオインターフェースにはこれがついているものもあります。
#3
ヘッドホンとスピーカーでは音が違うことを忘れない
これも当たり前ですが、結構忘れます。
特に深夜、ヘッドホンで作業をしているとテンションが上がりがちです。完成すると、その高いテンションのままマスターファイルを作ってしまいたくなりますが、必ずスピーカーで聞いてから完成にしましょう。なので、深夜だったら一日待って、改めて聞いてみることをお勧めします。
夜書いたラブレターはたいてい、後から読むと恥ずかしいものです。
何が違うのでしょうか??
スピーカーの場合は、たとえば左のスピーカーの音は右の耳にも入ります。
でもヘッドホンだとどうでしょう?
そう、意外といわれないと気がつかないのですが、反対の耳には入らないのです。
これがどう作用するかというと、もともと両方の耳に届いて成立するような音で影響が現れます。リバーブなどの空間系エフェクトはいわずもがな。落とし穴は、真ん中(センター)に位置するメインボーカルなども結構影響を受けるという事です。
また、左右の広さも異なりますので、ミキシング時、スピーカーで左一杯の位置に置いた音は、ヘッドホンで聞くとかなり左から聞こえます。それこそ、真横よりも後ろに聞こえることもあります。だいたいイメージよりも外側、真横より後ろ方向に定位します。
※定位:音の場所のこと。左に音があれば「左に定位している」といいます。ステレオだけでなく、前後方向や上下方向にも定位という単語を使います。
逆説的に、ヘッドホンで制作を行うと、スピーカーで聞いたときに、こじんまりとまとまってしまうことが多くあります。
理想は切り替えながら制作することなのですが、難しいようであれば日を改めてチェックすることをお勧めします。スピーカーで鳴らす場合も、音量はいりません。2種類以上の環境で再生することが大事です。
という事で、今回はノウハウというよりは知っておいた方がいい事、という感じでした。
次回はスピーカーの話を書きたいと思います。
最後まで読んでいただけたら是非クリックをお願いします!
答えは簡単です。
音を聞く環境(モニター環境)が整っていないと、どんなにノウハウを尽くして録音やミキシングしたとしても、効果がよくわからないからです。効果がわからないと、楽しくありません。
低域がよく拾えるようなセッティングをしました。
でも、低域がよく聞こえない環境で聞いていたら、どうでしょうか?
いい響きのリバーブをかけました。
リバーブの残響が聞こえない環境で、どのくらいのリバーブにしたら良いかわかるでしょうか?
※リバーブ:音に響き(残響)を後付けするエフェクター。風呂場の響きをつけるような。カラオケなどのエコーとは若干中身が異なる。カラオケのエコーは、リバーブだけでなくディレイという成分も結構含まれている。
そう、モニター環境が良くないと、判断ができないのです。
判断がしっかりと出来ない環境では、第3者が聞いたときに満足のいくような音が作れないばかりか、判断に時間がかかるため作業スピードも遅くなります。
音を聞くことを音楽制作の世界では「モニターする」といいますが、もともと英語で、Monitorとつづります。監視するといった意味を持っていて、文字通り作っている音を監視するのです。
監視カメラが曇っていたら、強盗の犯人は捕まえられませんよね?
ということで、まずは自分のモニター環境を整えることが必要です。
レコーディングスタジオでは、 大音量で微細な音や低域の内容をモニターするためのラージモニタースピーカー(略してラージ、ラージモニター)、制作作業において全般的に使用するメインのスモールモニタースピーカー(略してスモール、スモールモニター)、リスナーと同じような音で聞いて確認するためのラジカセ、ヘッドホンやイヤホンで再生された場合の音を確認するヘッドホン、と少なくとも4種類のモニターを使います。
しかし、日本の住宅事情やお財布事情を考えると、これらをすべて最初から揃えるのは現実的ではないですね。筆者もラージは持っていません。まずは、ヘッドホン。次にスモールモニター。という順で揃えればよいでしょう。ラジカセはなんでも良いので、時間を見つけて探すようにしましょう。それぞれ、個別に紹介していきます。
今回はヘッドホン。
ヘッドホンモニターは昔から使われている手法で、自宅で、深夜作業などを行う場合はこれがメインのモニターになると思います。そういう意味ではヘッドホンにお金をかけるのは間違いではないと思います。使うかどうかもわからないエフェクターに投資するよりよっぽど有益です。また、ヘッドホンモニターはセッティングにノウハウを必要としないため、いいヘッドホンがあれば誰でもどこでも安定した環境を揃えることができます。
筆者もスタジオに行くときの荷物が決まっています。与えられた環境を使うのが好きなのであまり荷物はありませんが、ヘッドホンだけは持っていきます。
筆者が使っているのはこれです。
どのスタジオでもほぼ同じ音で「監視」できる道具がヘッドホンなのです。
ヘッドホンのモニターはあまりノウハウを必要としませんが、知っておいたほうが良いことはあるので、それを紹介します。
#1
いつも使うヘッドホン端子を決める
ヘッドホン端子ならどの端子でも同じ音だと思っていませんか?
違うんです。
技術的な裏づけもあり、正確に言うと、録音機やDAWから出力された音が、ヘッドホンに届くまでに通る道の状況が違うので、違う音になります。大雑把に技術的な内容を説明すると、デジタルの場合はデジタル信号をアナログ信号に変換するDAC(Digital to Analog Converter、DAコンバーター)と呼ばれる部分、アナログ化された信号を出力できるように調整するアナログ出力回路、最後にアナログ信号をヘッドホンで充分な音量とするためのヘッドホンアンプ と、大きく3つの回路を通過してヘッドホンに入ってきます。
※DAW: Digital Audio Workstation、ダウなどと読むが正確な読み方は人それぞれ。ディーエーダブリューという人も多い。今日ではパソコンで作曲、録音、ミキシングなどが統合的にできるソフトウェアを指すことが多い。ProTools, SONAR, CUBASEとかいう名前のもの。Mac標準のGarage BandもDAWといえる。
この回路の中身が機材ごとに違いますから、当然音は違う音になります。
アスファルトを通った車と、水溜りのあるダートを通った車、出てきたら汚れ方は違いますよね??
パソコンの裏か横にもヘッドホン端子があると思います。DAWで制作している方でしたらオーディオインターフェースをお使いでしょうから、そこにもヘッドホン端子があると思います。(スタジオ級のものにはないです)
試すことができれば、CDなどでよいので、同じ音源を違うヘッドホン出力で聞いてみてください。
※オーディオインターフェース:パソコンの中の音(DAWとか)を外部に出力して聞けるようにする機材。これがないとDAWがあっても音が聞けないし、録音できない。厳密には、ほとんどのパソコンがオーディオインターフェース機能を内蔵しているが、音が悪いので制作ではメインで使われない。最近はAI(Audio Interface)と略されることもある。I/Fという略も結構多い。音楽制作で単にインターフェースといったらたいていはこのオーディオインターフェースを指す。
まずは、このヘッドホン端子の音の違いを把握しておくことが大切です。そして、基本的に使うヘッドホン端子はひとつに絞ってください。これが大事。色々な場所のヘッドホン出力を使ってしまうと、その都度異なる判断になってしまうので、作る音が安定しなくなります。
# 2
ヘッドホンを使うときはスピーカーを鳴らさない
意外と、忘れるんです。
ヘッドホンを使うときに、スピーカーが鳴っていると、聞こえる音が変わってしまいます。特にオープン型のヘッドホンを使っているときは顕著です。
※オープン型:ヘッドホンの種類のひとつ。ヘッドホンの外に音が漏れる、一般リスナーには信じられないようなヘッドホン。制作で使うと耳が疲れないので結構はまる。
理屈は単純で、スピーカーから出た音がヘッドホンに当たりますから、その影響で振動(見えません)となってヘッドホンの中の音にも影響を与えてしまうのです。特に、低域で顕著です。
というわけで、ヘッドホンを使う場合はスピーカー音量を下げるのを忘れないように!
スピーカー音量と、ヘッドホン端子の音量を個別に調整できる機器があると便利です。最近のオーディオインターフェースにはこれがついているものもあります。
#3
ヘッドホンとスピーカーでは音が違うことを忘れない
これも当たり前ですが、結構忘れます。
特に深夜、ヘッドホンで作業をしているとテンションが上がりがちです。完成すると、その高いテンションのままマスターファイルを作ってしまいたくなりますが、必ずスピーカーで聞いてから完成にしましょう。なので、深夜だったら一日待って、改めて聞いてみることをお勧めします。
夜書いたラブレターはたいてい、後から読むと恥ずかしいものです。
何が違うのでしょうか??
スピーカーの場合は、たとえば左のスピーカーの音は右の耳にも入ります。
でもヘッドホンだとどうでしょう?
そう、意外といわれないと気がつかないのですが、反対の耳には入らないのです。
これがどう作用するかというと、もともと両方の耳に届いて成立するような音で影響が現れます。リバーブなどの空間系エフェクトはいわずもがな。落とし穴は、真ん中(センター)に位置するメインボーカルなども結構影響を受けるという事です。
また、左右の広さも異なりますので、ミキシング時、スピーカーで左一杯の位置に置いた音は、ヘッドホンで聞くとかなり左から聞こえます。それこそ、真横よりも後ろに聞こえることもあります。だいたいイメージよりも外側、真横より後ろ方向に定位します。
※定位:音の場所のこと。左に音があれば「左に定位している」といいます。ステレオだけでなく、前後方向や上下方向にも定位という単語を使います。
逆説的に、ヘッドホンで制作を行うと、スピーカーで聞いたときに、こじんまりとまとまってしまうことが多くあります。
理想は切り替えながら制作することなのですが、難しいようであれば日を改めてチェックすることをお勧めします。スピーカーで鳴らす場合も、音量はいりません。2種類以上の環境で再生することが大事です。
という事で、今回はノウハウというよりは知っておいた方がいい事、という感じでした。
次回はスピーカーの話を書きたいと思います。
最後まで読んでいただけたら是非クリックをお願いします!