しばらく間があいてしまいましたが、上級編2です。
これは、これまで説明してきたセオリーとは真逆の行動を取りますので、面白いと思います。

これまで書いてきたように、デジタルレコーディングにおいては、歪まないギリギリまで録音レベルを上げる、というのがセオリーです。簡単に言うと、歪ませない、が大事です。
しかし、これは正確に言うと、デジタル変換時に歪ませない、というのが大事です。

これを理解するには、少し機材の仕組みを理解しないといけません。
マイクの信号はまずマイクプリアンプで増幅されます。
ここが入力レベルの調整という事になります。

次に、アナログ信号をデジタルに変換する、ADC(Analog to Digital Converter)を経由します。
厳密にはここでもレベル調整が可能で、ADCへ入力される信号のレベルを可変することが可能です。

ただし、ほとんどのオーディオインターフェイスはここが一体化されているため、入力段でレベル調整ができるのは、前述したマイクプリアンプのレベル調整のみということがほとんどです。

話を戻すと、歪ませてはいけないのは後段のADC入力レベルであり、前段のマイクプリ入力レベルは必ずしも歪ませてはいけない、という訳ではないのです。

ということで、この2段階調整ができる機材を用意すれば、「マイクプリで歪ませた音」という新しい武器を使うことが出来るようになります。

一般的な自宅環境で実現するにはどうすればよいかというと、別途マイクプリを用意して、マイクプリの後段にオーディオインターフェイスを接続すればこの技を使うことが出来ます。オーディオインターフェイスのマイク入力に接続するとマイクプリを2回経由してしまうため、マイクプリを持たないライン入力に接続するのが良いです。

ちなみに、せっかく別途用意するので音のキャラクターが異なるものを用意するか、グレードの高い著名なマイクプリを用意するほうが発展性があってよいでしょう。ただし、マイクプリ内にデジタル回路を持つものは、一旦デジタル変換された後アナログに戻されて出力になるので、デジタル変換されないで出力できるものを用意したほうがいいでしょう。
また、一部のオーディオインターフェイスは、パソコン接続せずにスタンドアロンで使えるようになっていますので、これを使うのも良いと思います。



で、方法は簡単です。
マイクプリの入力レベル調整で、ちょっと突っ込み気味にレベルを調整します。
PEAKランプなどがあるようであれば、いつもよりも高い頻度で点灯するくらいのレベルに調整します。
その後、オーディオインターフェイス側の入力レベルも監視し、こちらは歪まないレベルになるように、オーディオインターフェイス側のライン入力レベルを調整しましょう。
これだけです。
 
どのような音に対して有効かというと、ずばりドラムのキックとスネアです。
いくらちょっとの歪みとはいえ、歪みは歪みなので、わかりやすい音でやってしまうとすぐに気になります。
たとえばボーカルトラックのように、いかにクリアに録音するかが重要なトラックに使うと、歪み成分が気になって使えない音になってしまいます。

逆に、ドラムなどの音は音のひとつひとつが短く、一瞬少し歪んだくらいではわかりません。
波形を見ると、波形の頭がやや潰れているが、聞いていると感じない程度がベストです。

この歪み成分が音に加えられることによって、音が少し前に出る効果があります。
バスドラムやスネアでやると、普通に綺麗でクリアな音で録音するときよりもややワイルドな感じになり、前に出やすくなります。

ポイントは、歪ませるといっても、少しだけ、です。
聞いて明らかに歪んでいる音だと、よほど狙ってやる場合以外は使えないものになります。

従って、可能であれば録音時から他の楽器と一緒に演奏し、アンサンブルになったときに歪み成分が目立つかどうか、確認しておくと良いと思います。楽器単体の録音でこの技を使おうとすると、アンサンブルにしたときに歪み成分が目立ちすぎるか、もしくは逆に歪み効果が弱すぎるという結果になります。

あと、ベースにも実は使えます。
ベースのトラックは、いかにうまく楽曲に埋めるか、というのが個人的にはテーマです。
かといって、埋まりすぎるとベースラインがわかりにくくなるので、曲によってはこの歪み成分を付加することでやや際の立った音になり、埋まっているがベースラインは聞こえる、という状態を作ることが出来ます。

以上、上級編2でした。
ちょっと機材知識がいる技ですが、これは結構使えますので是非試してみてください。