- Imagine & Inspire - あなたは、もっといい音でつくれる。

様々なメディアで紹介される「機材の使い方」ではなく、「録音のノウハウ」をレコーディングエンジニアが紹介。大型スタジオではなく、小規模スタジオ、お世辞にも良いとはいえない機材環境で生き抜いたが故に身に着けた、与えられた機材で自分の求める音を出すためのテクニックを、自由気ままに紹介します。 動画がスタンダードになって久しい世の中。想像力を使うことも音楽制作の楽しみという考え方から、基本はテキストでの紹介。どんな音がするのか?自分の環境でどう活用するか?想像する力を、あなたはまだ持っていますか?

2014年08月

#013の基礎編はお読みいただけたでしょうか?
もしまだでしたら是非#013基礎編からお読みください。

今回はギターダブリングの応用編です。

応用1
ダブリングの幅を調節する


前回のダブリング設定では、パンの設定をL:100%/R:100%と書きました。

この振り分け方を調整することで様々な効果を得ることが出来ます


まず間隔を狭めるとどうなるでしょう?
L:30%/R:30%で設定してみてください。


狭めると、1つの楽器としての一体感が強くなります


L:100%/R:100%の設定では、完全に左右別々に聞こえますから、2本のギターとして聞こえます。
狭めると1本のギターに聞こえてきます。


 POPSなどでは、そこまでギターのワイルドさやパワフルさ、ギターパートの賑やかさを必要としないケースが多くあります

このような場合は、パンの設定を狭めることでギターの主張を弱めることが出来ます



ただし、 L:30%/R:30%くらいにしてしまうとセンターの土地に侵食してセンター定位の主役達に干渉しますので、バッキングパートの場合はL:50%/R:50%程度がお勧めです。




応用2
よりギターの主張を強くする(HR/HM的演出)



HR/HM系のサウンドではとにかくギターのパワフルさが重要。
もっとギターをパワフルに!という場合の応用です。


基礎編では2本のギターでダブリングしましたが、原理的にダブリングは本数を増やしても違和感がそんなに出ません


従って、録音する回数を増やします
4本録音してみましょう。



再生のパン設定は、
Gt1:L90%
Gt2:L75%
Gt3:R75%
Gt4:R90%
程度に設定してください。



もちろん2本の時より音量も増しますので、音量には注意しましょう。
これらのトラックをグループ機能などを使ってまとめてしまう、同じステレオバスにまとめてしまうと扱いやすくなります



単純な話で、ギターの本数が増えますので当然ギターの主張が強くなります。
ギターの壁!という演出をしたい場合に有効な手法です。



注意点は、低音です。


本数を増やすほどすべての帯域で音が大きくなります。


特に、ディストーションギターの低音は、かなり容積を消費しますので、あまり低音が強すぎるとベースやバスドラムなど、低音楽器に強く干渉してしまいます


このような場合は、センターに近いパートのみイコライザーで低域を少しカットしましょう。


低域は音響特性的にも方向性が弱いため、人間はどのギターの低音か認識しにくいです。

先ほどの例で言えば、Gt2/Gt3のみ低域をカットします。
シェルビングタイプのイコライザーを使って、200Hz以下くらいを数デシベル程度カットすれば充分です。
多少カットしたところで、ダブリングの効果や、ワイルド感は失われません


なぜセンターよりの音だけカットするかというと、低音の楽器はセンターに定位されることが多いためです。 
バスドラムの音もはっきりと聞かせたい場合などは、この低域調整処理をしておくと良いでしょう。



応用3
左右の聴感音圧調整に使う



これはギターのサウンドメイキングというよりも、楽曲全体の最終調整に使う技です。


ミキシングが進んで終盤に差し掛かると、トラック数が多い場合はどうしても左右の音圧感のバランスが悪くなることがあります


左右どちらかのみ、耳を押しているパワーが強くなってしまう場合です。



このような場合、ダブリングギターのトラックがあればこの違和感を是正することが出来ます。



たとえば、右から押されている感じがする場合は、ダブリングギターの右側パートのみ数デシベルフェーダーを落とします


ポイントは、ダブリングギターの定位が変化しない程度に留めることです。

左右同じ音量の場合は綺麗に広がって聞こえますが、どちらかが明らかに音が大きい場合は、左右どちらかに寄って聞こえてしまいます。


この技の目的は全体のバランス補正ですので、聞こえ方は変わらないように、聴きやすくするのが目的です。


ですから、ギターの定位は変化しない程度に、パワーの強い側のギタートラックの音量を下げるのです。


これで、左右から押されるパワーが調節され、聞きやすくなります。
パワーコードは音圧が高いということを逆用した技です。


応用4
サビを盛り上げる



楽曲において、サビを盛り上げるのにもダブリングは使えます



サビを盛り上げるには色々な手法があり、単純に言えばサビの部分だけ違うことをすればよいのですが、ダブリングをこの目的で使うのです。



サビ以外の部分では、ダブリングを使わず、サビの部分だけダブリングを使います。

サビになった途端音が広がり、音圧が増し、音量も上がりますのでかなり盛り上がります。



別の方法では、応用1の幅調整を応用することも出来ます。

サビ以外ではL:50%/R:50%程度としておき、サビの部分だけL:80%/R:80%に広げます。

するとサビになった途端音が広がって聞こえるので、盛り上がって聞こえます。





いかがでしょうか。

正直なところ、ダブリングパートは楽曲の中にひとつくらい仕込んでおくとミキシング後半でかなり役に立ちます
パワーコードを録音するときは、ダブリングするかどうかわからない場合も、とりあえず保険という意味で、2本録音しておくことが多いです。


また、ギター以外の楽器でも結構使えます。

かなり有効に使えるテクニックですよ。 

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Hard Rock/Heavy Metalでは定番ですが、POPSでもディストーションギター、歪んだパワーコードが入っている曲ではよく聞くことが出来る定番のエレキギターサウンドメイキングテクニックです。


同じギターを複数本録音することで、ギターの音に厚みや音圧感を出します。


ギターアンプのマイク録りでも有効ですが、LINE6 PODなどのギターアンプシミュレーター、ギターアンプシミュレレーションプラグインを使った場合にも有効です。





ディストーションギターを録音したことはあるでしょうか。



1本だけ録音して聞いてみると、パワーコードフレーズなのにあまり迫力がない、と感じると思います。 



楽曲において、パワーコードに求めるものはなんでしょうか?

・いわゆる、エレキギターらしさ
・ワイルドな感じ、荒々しさ
・単純なコードプレイならではの安定感

などなど。


どれもある程度の迫力、音圧感がないと表現にしくい目的ですね。



というわけで、ディストーションパワーコードにはよく使われるのがこのダブリングという手法です。



コーラスというエフェクターをご存知でしょうか。


仕組みとしては、入力された音と微妙に違う音程に調整した音を出力し、それらを混ぜることで音に広がりを持たせるエフェクターです。


同じ音程で同じ音を2つ再生すると、2つの音は合成され単純に音量が大きくなる、ということが起こります。


しかし片方の音が少しでも違うものになると単純合成にはならず、異なる音が2つ聞こえるようになります。


この音程のずれを大きくすることでいわゆるコーラス感が強くなり、原音と異なったコーラスサウンドが得られます。


ダブリングの仕組みはこれと非常に良く似たものですが、原音の雰囲気と失わずに広がりを得られる点がダブリングの長所です。


ギターのサウンドを失うことなく、広がりや安定感が得られるのです。


単純に説明すると、同じセッティング、同じ演奏を複数回録音し、別のトラックに録音します。
録音した音をすべて、同じセッティングで再生します。 


マイク録りの場合は、マイクを立ててギターを1回録音します。
続いて、全く同じ演奏をもう一度演奏してもらい、それを録音します。


シミュレーターやプラグインでギターの音を作っている場合も基本的には同じです。
違うトラックに2回、演奏して録音します。
マイクはなんでも良いと思いますが、迷ったらこの辺が定番です。

同じセッティングで同じパートを録音しますから、録音されるレベル、波形などは非常に似たようなものになります。


次に、この2つのトラックをパンで左右に振り分け、同じ レベルで出力します。
取り急ぎ、パンの設定は左100%、右100%で良いと思います。



さて、どうでしょう?



1トラックのみで演奏した場合よりも、はるかに広がりのあるサウンドが得られたはずです。
 

技としてはこれだけです。
非常に簡単ながら、目的のサウンドが得られたと思います。



なぜでしょう?


まず、2本同じような音を左右に配置するため、音圧的に非常に安定します


たとえば、ディストーションギターを左側からだけ出力すると、左側の音圧だけが高くなってしまいます。
すると、左側の耳だけ音に押されるため、左側から頭を押されるような感覚になり、聞いていて落ち着かなくなります



人間は基本的に左右対称(シンメトリー)に安定を感じるのです。


左右に振り分けることで、非常に落ち着いて聞くことができるのです。




次に、単純にギターの音が1本の2倍入っていることで、パワフルさも2倍になります。




このダブリングでさらにもうひとつ、副作用が得られるのですが、わかりますでしょうか?



これも非常に単純な話ですが、左右に振り分けることで、音のセンターがすっぽり空きます
つまり、センターに違う音を配置できるようになります。



センターに相応しい音とはなんでしょう?



そう、ボーカルやソロパートといった主役達です。



主役を引き立たせることと、ギターのコード感を聞かせることが両立できるのです。



と、簡単ながら色々効果の大きいダブリング。
是非トライしてみてください。 

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