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様々なメディアで紹介される「機材の使い方」ではなく、「録音のノウハウ」をレコーディングエンジニアが紹介。大型スタジオではなく、小規模スタジオ、お世辞にも良いとはいえない機材環境で生き抜いたが故に身に着けた、与えられた機材で自分の求める音を出すためのテクニックを、自由気ままに紹介します。 動画がスタンダードになって久しい世の中。想像力を使うことも音楽制作の楽しみという考え方から、基本はテキストでの紹介。どんな音がするのか?自分の環境でどう活用するか?想像する力を、あなたはまだ持っていますか?

2014年07月

ミキシングの3種の神器というのはご存知でしょうか。
最低限これがあればミキシングできる、という3種類のエフェクターです。


3種の神器は、ディレイ、リバーブ、イコライザーだと言われています。
筆者もこれに同意で、ミキシングをお願いされたら最低限この3つは確保します。
それぞれブランドなどの好みはありますが、最低限、ということであればブランドも問わずとにかくこの3種類のエフェクトを確保します。

このうち、最もなじみ深いものがリバーブでしょう。
カラオケではエコーとして扱われています。
※正確にはカラオケのエコーはディレイとリバーブが混ざった複合的なものです。

リバーブは一般的にはセンドリターン形式で使うのがセオリーです。
もろもろ理由はあると思いますが、複数のトラックで同じリバーブを使ったほうがコントロールしやすく、良い響きを得やすいというのが大きい理由です。

昨今のDAWベースのミキシングの場合は、パソコンの負荷の兼ね合いもあります。
リバーブは最もパソコンのパワーを消費するエフェクトであるため、できるだけ使う数を抑えたい、という事ですね。

さてさてリバーブをセンドリターン形式で使う場合、簡単によりクリアな響きを得る方法がありますのでご紹介しましょう。

リバーブEQと呼んでいる技です。
リバーブをかけてみたものの、響いているだけであまり綺麗に聞こえない場合などに有効です。
筆者の場合、ほぼすべての曲で使っている技です。

センドリターン形式で使っている場合、音が録音されたトラックと別にAUXトラック(バス)をつくり、そこにリバーブエフェクトをインサートして使います。
このリバーブの後段にイコライザーを入れて、リバーブの響きの成分のうち、不要と思われる成分をカットしていく手法です。

イコライザーの種類はなんでもかまわないのですが、パラメトリック形式でイコライジングでき、かつ4バンド程度のものが適しています。

とはいうものの、ミックス全体を聞きながらリバーブの音質調整をするのは実はすごく難しいのです。

リバーブは本来対象の音とリバーブ成分が混ざった状態で、かつミックス全体の中でバランスを調整するものですが、リバーブEQを行う場合は、リバーブ単体、つまり響きの成分だけを聞きながらイコライジングするのがポイントです。

また、ある程度ミックスが完成してから行ってください
途中段階でこの技を使うと、後からリバーブに送られてくる音が激しく変化してしまい、最大の効果を得ることが出来ません。


方法は簡単で、まず新しいステレオトラックを作成します。

リバーブトラックの出力先をこの新しく作成したステレオトラックに指定します。
この状態でステレオトラックを録音すると、リバーブの音を録音することが出来ます。 

この手法で、曲の最初から最後まで、リバーブの音だけを録音したトラックを作りましょう。 

この録音されたトラックをソロにして聞いてみると、リバーブの音だけを聞くことが出来ます。
このトラックにイコライザーをインサートして、イコライジングします。

イコライジングのコツとしては、普通のトラックと同じ感覚で、リバーブ成分だけ聞いても気持ちよい音となるようにイコライザーで音を作っていきます。

多くの場合はピーキングEQで音が溜まっている帯域をカットしていくと良い感じになります。
ポイントの探し方は、イコライザーでブーストしてみて、気持ちよいポイント、気持ち悪いポイントがあると思いますので、気持ち悪いと感じた場所をカットしていきます。

多くの場合低域もさほど必要ありませんから、200Hz以下は切ってしまっていいと思います。
(バスドラムやベース、ピアノ単体の楽曲など、低域に対してリバーブをかけたい場合を除きます)

良い感じにイコライザーが設定できたら、このイコライザーをリバーブトラックにコピーします。
もしくは、プラグインエフェクトを移動してしまってもかまいません。
多くのDAWではプラグインをドラッグアンドドロップすると移動できます。

コピーできたら、リバーブ音を録音したステレオトラックはミュートするか、非アクティブ化してしまいましょう。

あと、リバーブトラックの出力先をメイン出力に戻すのを忘れないでください。
忘れても音が出ないだけですが、、、、苦笑


これで、他のトラックと一緒に再生してみてください。

どうでしょう?

かなりスッキリして聞きやすくなったのではないかと思います。
このように、リバーブは、実は楽曲に対していらない響きも多く含まれているのです。



これがリバーブEQという技ですが、これと一緒に使うと有効な技がありますのであわせてご紹介。

リバーブを固定するという技です。
これはDAWでのミキシングに限られますが、リバーブはパソコンの負荷が大きく、逆に言えばパソコンの状態によって音質が変わってしまう傾向があります。

単純には、パソコンが忙しいときは本来の音が出ないことがあるという事です。

これも方法は簡単です。

先ほど作成したステレオトラックに、再度リバーブの音を録音します。
当然、先ほどのリバーブEQをかけたリバーブ音を録音します。

録音したら今度は、リバーブトラックそのものをミュートしてしまいます。
そして、ステレオトラックに録音されたリバーブ音を、他の音と一緒に再生するのです。

ポイントは、この録音を行う際は、パソコンの負荷を軽くしておくと高い効果が得られます。
リバーブに関係ないトラックを非アクティブにする、他のアプリケーションを終了させる、マスタートラックなどリバーブトラックより出力側に近いトラックのプラグインを非アクティブ化するなど、とにかく負荷を軽くします。

この状態で、ステレオトラックにイコライジングされたリバーブ 音を録音します。

いかがでしょう。

あまり録音していない時との変化は無いかもしれませんが、ミキシング終盤であればあるほど効果は如実に現れます。

特に、DAWのバウンス(エクスポート)機能を用いてステレオマスターを作る場合は、バウンス中が最大負荷となってしまうため、効果が大きいです。

また、このリバーブ固定後はリバーブエフェクトを非アクティブにできますので、バウンス時のパソコン負荷をかなり軽減することが出来ます。


このリバーブEQとリバーブ固定、シンプルな技ですがトラック数に関わらず効果が大きいので、是非やってみてください。 

クラウドソーシング「ランサーズ」  



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一般的に日本で自宅録音をしていて、マイクを立てる機会が多いのはボーカル。次にアコースティックギターではないかと思っています。(勝手に)



ということで、アコースティックギターのマイキングを例に出して紹介していきたいと思います。

非常に奥の深い話ですが、適度にまとめてご紹介したいと思います。




ボーカルなどでも同じことが言えますが、マイクを立てる場合は、マイクを置く場所そのものの前に考えるべきことがあります




それは、演奏する場所です。



レコーディングにおいては、マイクを立てる場所が重要。

なぜならばマイクというのは人間の耳と違うもので、欲しい音だけ集中して音を録ることができないためです。
置いた場所で聞こえる音を、すべて電気信号に変換してしまうわけですね。



そこで、置く場所が重要になります。



レコーディングにおいて難しいのは、演奏者が聞いている音とマイクで録れる音が違うという事です。


これはすべての楽器において言えることです。
ボーカルでも、自分で聞いている自分の声と、録音して聞く自分の声は驚くほど違うものです。
アコースティックギターでも同じです。


ということは、演奏する人が弾いていて気持ちよく聞こえる場所と、マイクで録音した時に気持ちよい音が録音できる場所は、違うという事になります。




重要なのは、レコーディングにおいてはマイクで録れる音を優先する必要があるという事です。






なぜでしょうか?






レコーディングは、誰かに聴かせるために行っていることだからです。

後で自分で聞くためのレコーディングでも同じです。

後で聞くのは、今演奏している自分でなく、後で聞く自分です。




ということを理解したうえで、実際によく録音できる場所を探していきます。




自分で録音する場合は結構大変。
できれば二人でやると早いです。



まずは部屋を選びましょう。

アコースティック楽器の録音では、どの部屋でも同じ音が録れる訳ではありません


現在の日本家屋はほとんど洋室ですが、自宅録音においては和室の方が向いていると思っています。

洋室の場合は吸音する素材が少ないため、フラッターエコーが発生しているケースがあります。
フラッターエコーはレコーディングにおいては結構扱いにくいもので、基本的に避けたほうがいいです。

※フラッターエコー:反射した音が反対の壁に反射し、2つの面の間を半永久的に反射し続けてしまう現象。硬い平面で構成された部屋で起こりやすい。レコーディングスタジオや音楽室、音楽ホールの壁が平面で構成されていないのは、このフラッターエコーを防ぐため。

日本では鳴竜(なきりゅう)という現象としても有名で、日光東照宮の鳴竜は有名です。



その確認方法ですが、手を強めに叩いてみて、残響音に手の音以外の音が入っているように聞こえたら、フラッターエコーが出ています。ミィン、、、、、というような音が聞こえます。


和室の場合はほとんど起こりません。

なぜかというと、和室な吸音する素材が多いからです。
畳や土壁、障子、ふすま、、日本は吸音が好きなんですね。


和室がないようでしたら、カーテンを活用しましょう。
カーテンを閉めることで音が吸収され、録音しやすくなります。


昔から、録音する人の部屋には卵の空きパックが貼ってあることがよくあります。
これも同じ目的で、音を吸収させて特性を改善させるためです。
ちなみに、プラスチック製の空きパックを貼ってもダメなのでご注意ください。




次は、部屋の中から響いてしまうものを排除します。



一度大声を出してみてください。


大音量に反応して響いてしまっているものがあれば、それは部屋から出しましょう


出せない場合は、布をかける、テープで響きを止める、といった対処をしておきます。
このような楽器以外の共鳴音は大変扱いにくく、ミキシング最終段階になって邪魔をする場合は多くあります。




準備が出来たら演奏してもらいます。


演奏してもらった状態で、マイクを立てる場所をもう一人が探します。
まずは、演奏者から1メートルほど離れた場所で聞いてみて、なんとなく音がよく聞こえる場所を探してみてください。

このとき、演奏者も動いて、様々な場所で演奏してみましょう。



なんとなく、よく聞こえる場所があるはずです。



壁との距離、角度などによって、聞こえ方は変わってきます。
一番良いと思える場所を探しましょう。



この場所が、マイクを立てる場所候補、という事になります。



経験的に、狭い部屋で録音する場合は、反射音をいかに少なくするか、が重要になります。

ですから、反射しても反射が減衰しやすいよう、部屋の対角線に対して垂直になると、良い結果が得られやすいです。



また、演奏者の前に出て跳ね返ってくる音と、後ろに出て跳ね返ってくる音、どちらが強いでしょう?



ホルンなど一部の楽器を除き、ほとんどの場合は前の方が音が強いです。



従って、演奏者の後ろの壁と前の壁、距離としては後ろの壁に近いほうが有利です。

かといって壁に背をつける様に演奏すると背面の反射が強すぎて音が変わってしまう場合が多いので、背面側から1m程度の場所からはじめるのが良いでしょう。




ここまで来てわかるとおり、広い部屋の方がいいです(苦笑)




まず、場所の自由度が違います。



次に、反射音が返ってくるまでの時間が長いです。



ですので、自宅の中で最も広い和室、つまり客間のようなものがあれば録音に適しています



もちろん自宅の中だけでなく、リハーサルスタジオのような場所で録音できれば、そのほうが自由度がありますので、是非トライしてみてください。



リハーサルスタジオの場合、注意すべきは常設のドラムセットです。
結構、鳴ってしまいますので注意してください。
外に出すわけには行かないと思いますので、洋服などの布をかぶせてしまうのが手っ取り早いですね。



録音する場所が決まったら、マイクを立てていきましょう。

 

クラウドソーシング「ランサーズ」  



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#008, #009とボーカルを前に出す方法を紹介してきました。 

前回の方法はエフェクトを用いて積極的に音を作りこむ方法でしたが、今回の方法はもっと根本的な方法です。

しかしながら、根本的な方法であるため全体の音への影響が少なく、お勧めの方法でもあります。



さて、なぜ前に出すのかは#008で述べたとおりです。
覚えていますでしょうか?





そう、主役を主役らしくすることですね。





主役とか脇役といえば、何でしょう。
舞台や演劇がまず思い浮かぶのではないでしょうか。





この、舞台や演劇での主役の扱いはどのような感じでしょうか。





そう、主役はやはり主役らしい扱いなのです。
主役が、一番目立つようにすべてが出来ているわけですね。


でも、これは脚本や主役そのもののクオリティが影響しているだけでなく、脇役のクオリティも大きく関わっています




脇役がダメとはどういうことでしょうか?




演技の上手下手もありますが、主役より目立ってしまう脇役というのがいますね。
演技のレベルそのもので言えば優秀なのでしょうが、演劇として考えればダメな役者です。



脇役であることを認識し、脇役らしくすること。
これが大事ですね。



音楽のアンサンブルにおいても同じことが言えます


主役以外のパートには、脇役らしく少し引いた立ち位置を持ってもらえばよいのです。




この演出をどのように作り出すか?




これには、グループという考え方を使います。
DAWでミキシングをしている場合は、そのままですが、グループ機能を用いて演出します。



まずは、ボーカルと、その他大勢にパートを分類します。



新しいグループ、もしくはバスを作成します。 
マスターをステレオで作る場合は、このグループもステレオで扱ってください。
ほとんどの音楽においてはステレオだと思います。

※バス:音響機器において音の流れる道、経路の事をバスという名称で呼ぶ。英語のBUS、乗り合いバスと同じ意味合い。乗り合いバスは、色々な人が同じ車に乗って移動するが、これと同じように色々なパートが同じ経路に乗って出力先に向かうことからこう呼ばれる。(と思われる)バスは本数で数えられ、4バスのミキサーといえば、信号経路が4本あるミキサーという事。ステレオの信号は2バスと数えるので、4バスの場合はステレオ以外に2本の出力経路を持っていることになる。ちなみに英語表記は2種類あり、BUSかBUSSである。メーカーによって異なるようで、どちらでもだいたい通じる。

何か名前をつけておきましょう。
筆者はだいたいInstrumental (inst)といった名前をつけます。
ここでは便宜上このグループをInstグループと呼びます。



次に、ボーカル以外のパート(トラック)を、すべてこのInstグループに出力してください。
具体的には、ボーカル以外のトラックの出力先をInstにします。



一応、Instグループの出力先がMasterになっているかどうかは確認しておいてください。
なっていないと、音が聞こえなくなります。



一般的なDAWの場合、デフォルトの出力先はMasterといった名前のバスになっていることが多く、このMasterは何かというと、モニターする音と同じ内容のものですね。


※デフォルト:初期設定のこと。初期設定とは、買ったままの状態を言う。デフォルトに戻すといえば、最初の設定に戻すことを指す。「このパラメーターはデフォルトが10」といえば、このパラメーターは買って最初に使った時の数値が10だった、という事になる。Default。


 とりあえずこれで準備完了です。



Instグループのボリュームが0dBになっている場合は、基本的にInstグループに入ってきた信号をそのまま出力されるはずですので、Instグループを作る前と同じバランスで聞こえるはずです。



この状態で、Instグループの音量を1dBでもいいので落としてみてください。






どうでしょう?






ボーカル、よく聞こえるようになっていませんか?




まぁ、よく考えれば当たり前です。
ボーカル以外のパートのボリュームをすべてちょっとずつ下げたのと同じ効果ですので。



つまりはすごく簡単なことで、ボーカル以外の音量をちょっと下げる、脇役にちょっと下がってもらえば主役は自動的に聞こえるようになる、という事です。


ただし、パートが多くなってくるとこの作業がかなり大変ですので、グループというものを使って、ボーカル以外を全部下げるという作業をすごく簡単にやってしまう、というのが今回の技です。




たいしたこと無いように見えますが、この技はものすごく応用が利きます
また、ボーカル以外のパートの音量を1dB下げる作業、1回ならいいですが、繰り返し1dB単位で調節する作業を想像してみてください。





だんだん面倒になって、適当になってしまう作業です。





簡単に、ボーカル以外のボリュームを一括で調整できる環境、というのが今回の技のポイントです。






応用という意味では、この技は主役と脇役以外の組み合わせでも使えます
というか、グループを組んでミキシングするというのは非常に効率的ですので、是非身に着けてください。


主役と脇役以外の組み合わせの筆頭は、リズムとハーモニーの組み合わせです。
リズムグループはリズムをつかさどる、ドラムとベースなどの組み合わせになります。


一方ハーモニーはピアノやギター、キーボードといったコード楽器ですね。


音楽においてリズムとハーモニーはバランスが大事です。
このバランスによって、音楽性が異なって聞こえるほどです。



このリズムとハーモニーのグループを、先ほどのInstグループの中に組んでしまうというわけです。

構造としては、

Master <-Vocal
<-Inst <-Rythm
<-Harmony
といった構造になります。


instグループのときと同じように、それぞれのグループの出力先を変更してグループを組みます。



音楽の3要素を覚えている方はお分かりだと思いますが、VocalはMelodyになりますね。
この3つのグループで3要素と主役、脇役のバランスをコントロールするのです。


これらのグループは、1dB単位の変更で音楽性が一変しますので、レベル調整は慎重に。
そして、基本的にボリュームはどこを上げるか、ではなく、どこを下げるか、で調整してください。


下げる方向に調整するのがコツです。




さぁどうでしょう?




面白いように音楽の聞こえ方がコントロールできますので、是非やってみてください。




クラウドソーシング「ランサーズ」  



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今回はボーカルを前に出す技、ふたつ目です。
ひとつ目のEQ編は#008を見てください。

#008では、ボーカルを前に出す意味についても記述しているので、こちらの記事からお読みの場合は、是非#008を読んで、前に出す意味を確認したうえで読んで頂けると嬉しいです。




さてさて。



#008 EQ編では、素直にボーカルを前に出すという技でしたが、今回の「前に出す」は、正確に言うと前に出たように演出する、という技です。ボーカルそのものは前に出さず、前に出たように錯覚させるものです。


まずは原理的なお話をしましょう。
映像的なイメージを持つと理解しやすいので、また画像を例にとってみます。



まず、人間の絵を描いたとします。
この時、人間そのものだけを描いた絵は、立体的に感じるでしょうか?



人間でなくてもいいです。
ただの立方体でも良いので、そのものだけを描いてみる、または想像してください。



どんなにうまく描けても、あまり立体的に見えないと思います。





なぜか?





それは、影が無いからです。



周りを見回してみてください。



すべてのものには、必ず影があるのです。
そう、現実の世界には影があるのです。


では、先ほどの絵に適当でも良いので影をつけてみましょう。




どうです?




たとえ絵は下手でも、立体的に見えるのではないでしょうか?




つまり、立体的に見せるには影を描けばいいのです。




音の世界でもこれと同じ考え方が通用します



ただボーカルを出している状態は、つまり影の無い絵と同じです。
このボーカルに影をつければ、ボーカルそのものに手を加えずとも立体的になる、つまり前に出たように錯覚します。



錯覚でいいのか?



錯覚でいいのです。
そもそも、音というのはそう感じているだけで存在していないのですから、すべて錯覚のようなものです。



ということで、影をつける方法をご紹介します。
これには、ディレイを使います


ディレイはモノラルでもステレオでも大丈夫で、高額なディレイエフェクトではなく、ものすごく単純なディレイでも十分効果があります

DAWの場合は、このディレイをトラックにインサートします。実はトラックインサートでなくセンドリターン形式でも構わないのですが、ボーカルにだけかけるのであればこの方法で大丈夫です。



ディレイで操作するパラメーターは、ディレイ音のタイミングを司るディレイタイム、ディレイ回数を司るフィードバック、ディレイ音の音質を調整するイコライザーの3つ、そしてドライ音とウエット音のバランスを調節するミックスバランス。これだけです。



とりあえず、ボーカルトラックをソロにしてください。
慣れればソロにしないで作り込めますが、慣れないうちはソロにして、どのような音になっているのか理解しながら音を作ってください



まずは、ミックスバランスをドライ/ウエット70/30程度にして下さい。ディレイがかかった音が3割ということですので、結構派手にディレイ音が聞こえるはずです。
 

この状態でディレイ音を作り込みます。


次にディレイタイムを190ms程度に設定します。厳密なものではありませんが、色々試してこの辺のディレイタイムが一番しっくりきました。好みに合わせて前後させてみてください。
 

次にフィードバックを設定します。多くのディレイエフェクトでは%表示ではないかと思うのですが、25%程度から始めましょう。多くすると回数が多く(長く)なります。他の楽器と合わせた時に、ディレイ成分を強くしたい時はこのフィードバックを長くするか、ミックスバランスを調整します。



この状態では、かなりディレイ音が強めに聞こえるはずです。



この状態だと、影を作るというよりはボーカルのコピーが増えているイメージになっていると思います。これを影にしていきます。



影にするには、ボーカルそのものと違う、本体よりも目立たない音質にすれば影っぽくなります#008 EQ編の応用で、ディレイ音を後ろに下げればいい訳ですね。





どうするか?





そう、イコライザーで高域をカットします。多くの空間系エフェクトはシェルビングのイコライザーを備えているので、これを使って派手に高域を削りましょう。4kHzくらいから高域を5dBとか、派手にカットしてもらった方がわかりやすいです。これは、ボーカル本体をカットするのではなく、ディレイ音のみカットするというところがポイントです。
 


さて、音はどうでしょうか?



ボーカルそのものはそのままで、後ろに影が付いたような感じになっているのではないかと思います。音量は上げていないのに、よく聞こえる感じがしないでしょうか。



ちなみにディレイにイコライザーがない場合は、センドリターン形式でディレイをかけて、ディレイのチャンネル、ディレイエフェクトの後段にイコライザーを挿せば同じようなことができます。



ボーカルトラックがソロの状態では、かなりディレイが強めに聞こえると思いますが、このままで良いです。他の楽器と合わせていくと、だんだん弱くなっていきます。



ということで、ボーカルのソロを解除しましょう。



この状態で、まだディレイ音が強いと感じる場合は、ディレイのミックスバランスを調整して、ドライ音の分量を多くしてください。



パッと聞いた感じではディレイ音が聞こえないが、ディレイがない時よりも立体感がある、という状態がベストです。後はお好みでミックスバランスやパラメータを調節してください。






これはプロフェッショナルのミキシングではかなり多用される技で、かかっているけどディレイのように聞かせないのがプロっぽいです。パッと聞くとリバーブもないドライなボーカルでも、多くの場合はディレイを用いて立体感を作っています。


ついでに言うとドライなボーカルでも、ものすごく薄く上品なリバーブがかかっていることが多いです。ディレイ+リバーブの複合技ですね。


ディレイの種類はなんでも良いので、DAWベースの場合はCPU/DSP負荷の少ない、最初からついているようなディレイで十分です。



でも余裕があれば、テープエコーをエミュレートしたようなエフェクトがあればためしにやってみてください。それはそれで面白い感じに仕上がります。

ちなみにテープエコーというのは、もともと本体の中でテープが再生されるエフェクターで、1周が閉じられた終わりのないテープが使われていました。入力音をテープに録音し、そのまま再生しますが、その時間差を調整することでディレイ音を作るものです。本物は↓のようなものですが、エミュレートされたプラグインが多く出回っています。


また、ディレイエフェクトでモジュレーション効果がかけられるような場合は、これも活用することができます。要は、ディレイ音を影っぽく、本体より目立たなくすることがポイントなので、モジュレーションを用いてディレイ音の輪郭をぼやっとさせてしまえば、これまた影っぽくなるので有効です。



色々と応用ができる技ですので、研究してみてください。#008同様に、ボーカルだけでなく立体感を持たせたいトラックにはすべて使うことができます。



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ボーカルのミキシングにおいて、ボーカルをよく聞こえるようにすることを「前に出す」と表現しますが、その手法はいくつかあります。

ここで紹介するのは最も簡単な方法です。



が、その前に。



前に出すと何が良いのか?
なぜ前に出すのか?



ということを理解しないといけません。
すべての音作りには意味が必要なのです。




「普通こうやるから」




という理由で作った音は、リスナーに届きません。


 
アーティストはその楽曲に込めたメッセージを届けるべく演奏します。
エンジニアもこの楽曲を演出するための重要なポジションですから、アーティストと同じ想いで録音を進めたいところです。




さて、ボーカルを前に出す意味ですが、「主役にするため」です。




歌のあるほとんどの楽曲において、ボーカルは主役です。
主役が聞こえにくかったら、主役だと思えませんよね。
 
 
主役を主役にするべく、ボーカルを前に出すということを認識しておきましょう。


この感覚は、写真撮影における「被写体」の考え方とよく似ています。
被写体がなんなのかわからない写真って、ありますよね。


子供の写真なのに子供が小さい
富士山の写真なのに手前の景色の方が目立っている


などなど。



これらは、写真に対して知識の浅い、一般ユーザーのスナップ写真などによく見られることです。写真家の写真はこのようなことがありません。



そう、プロだからです。


 
 
被写体が何かわかっているし、被写体を被写体として演出する技術があるのです。




サウンドメイキングも同じですね。





さて、実際の方法ですが、イコライザーを使います。




録音されたボーカルのトラックに対してイコライザーがかけられるようにしてください。
DAWであればトラックにイコライザープラグインを挿入します。


※イコライザー:音を低音域、高音域など帯域ごとに増幅、減衰できるエフェクター。選んだ周波数(高さ)から低い音すべて、または高い音すべてを増幅、減衰するタイプをシェルビングタイプと呼び、指定した特定の周波数を中心にその周囲を増幅、減衰するタイプをピーキングタイプと呼びます。 ギターアンプについているのもイコライザーです。



イコライザーによる音の違いがわからないうちは、どのイコライザーでもいいです。
表示が綺麗なもの、使いやすいもの、なんでもいいです。
 
 
使い込むうちにこの技に適したイコライザーがわかってきますので、最初のうちは色々なイコライザーで同じことをして、音の違いを聞いてみてください。



次に、イコライザーで8~9kHz以上をブーストします。

 
 
できればシェルビングタイプのEQが良いのですが、ピーキングタイプしかない場合は、12kHzあたりがピークとなるように広いQでブーストしてください。


※Q:ピーキングタイプのイコライザーにおいて、中心となる周波数を指定するが、一緒に増幅、減衰する範囲を決めるためのパラメーター。イコライザーによってその数値の捉え方が異なる場合があるので注意。音を聞いて判断すべし。


ブーストする量は2dBくらいで良いでしょう。
このブーストする量で、どの程度前に出すか調整することができます。



音を聞いてみてください。




どうでしょう?




イコライザーの種類にもよりますが、1dBあたり1cm程度前に出る感覚が得られると思います。


技としてはこれだけです。

 
あまりきつくかけすぎると不自然な音になりますので、あくまで音は変わらずに前後位置だけ動く範囲に留めるのがポイントです。筆者はだいたい0.5dBか多くて2.5dB程度になることが多いです。



またこの技はボーカルに限ったものではなく、主役にしたいパートには活用することができます。
ギターソロ、サックス、バイオリンなどが効きやすいですね。



この技を行う場合、本来はアナログイコライザーの方が適しています
アナログイコライザーというよりは、難しい話ですが位相特性の良いイコライザーが適しています。位相特性の良いイコライザーというのは、簡単に説明すると、イコライジングしても音そのものは変わらず、周波数特性だけ変わるイメージのイコライザーです。


※位相特性:この言葉の使い方が正しいかどうかは賛否両論あるが、筆者は音の波の重なり具合のようなニュアンスで使っている。大体通じる。音は複数の音が重なり合ってできており、イコライザーでは特定の音のみ変化を与えるため、当然このバランスが崩れる。この時に重なり方によっては、元の音よりも引っ込んで聞こえたり、気持ち悪く聞こえたりすることがある。元の方が良かった、聞こえやすかった、という場合はこの位相特性が疑わしい。
 

プラグインのイコライザーの中には、かけるとなんとなく音が気持ち悪くなるものが結構あります。ボーカルだとわかりにくいのですが、ピアノにイコライジングするとよくわかりますので、やってみてください。

※プラグイン:DAWにおいては、それぞれのトラックに好きなエフェクターを差し込んで使うことができる。この差し込むエフェクターをプラグインと呼んでいる。例えばアナログコンソールの場合、イコライザーは最初から入っていて外すことができないが、DAWのプラグイン形式の場合はイコライザー無しの状態が初期状態となる。

※イコライジング:イコライザーをかけること。

で、
 
追加技としては、この技のためにアナログイコライザーを通してしまうという技があります。



DAWの場合は一旦出力し、アナログのイコライザーを通した後で再度インターフェイスを通してDAWに録音します。



プラグインに慣れていると驚くほどアナログイコライザーの音がいい感じに聞こえる場合が多々ありますので、やってみてください。アナログイコライザーならなんでも良いので、余っているコンパクトミキサーなどを通しても結構面白いです。



これは先ほどの主役の話につながるものがありますが、主役にだけ違うことをしてあげると勝手に目立ってくれます。主役だけアナログイコライザーを使う、という訳です。



主役っぽくなりましたか?




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