- Imagine & Inspire - あなたは、もっといい音でつくれる。

様々なメディアで紹介される「機材の使い方」ではなく、「録音のノウハウ」をレコーディングエンジニアが紹介。大型スタジオではなく、小規模スタジオ、お世辞にも良いとはいえない機材環境で生き抜いたが故に身に着けた、与えられた機材で自分の求める音を出すためのテクニックを、自由気ままに紹介します。 動画がスタンダードになって久しい世の中。想像力を使うことも音楽制作の楽しみという考え方から、基本はテキストでの紹介。どんな音がするのか?自分の環境でどう活用するか?想像する力を、あなたはまだ持っていますか?

奥義と書いていますがそこまですごい技というわけでもなく、タイトルに困っただけです。苦笑


さて、ミキシング中にベースの音を混ぜていると、どうしてもしっくりこない時があります。

#17の方法などを使ってベースの音をなだらかにすると周波数特性的には落ち着くので単体で聞くと気持ちよいサウンドになりますが、オケに混ぜるとしっくりこない、座りが悪い、周りの音と馴染まない、といった時があります。


このようなケースの原因はベースの音そのもの、しかも音の良し悪しというよりはオケとの相性が悪いというケースが多いです。

そもそもオケに馴染みの良いベースの音で弾いてもらうのが一番良いのですが、プレーヤーはアンサンブルでの混ざり具合よりも単体の音の良さを追求するケースも多く、混ざってみると混ざりが悪い、というケースは結構あります


これは単純にプレーヤーの音質そのものを否定するようなものではなく、プレーヤー側からはアンサンブルでの混ざり具合というものの判断はものすごく難しいものなのです。


そして、その混ざり具合、アンサンブルの美しさを見出し整えるのがレコーディングエンジニアの役割のひとつでもあります。


客観的にアンサンブルを聴き、それぞれの音を調整するという事です。


録音の最中に気がつけばプレーヤーと相談して調整することが可能ですが、録っている最中には気がつかない、時間がなくてどうにも出来ない、音は改善の余地があっても演奏が良いので採用したい、といった具合で様々な要因から音を追求できないケースもあります。


さてこのような場合、既に録音されている音でなんとかしなければなりません


ここで考えなければならないのが位相です。


低域というのは周波数が低いということであり、波形で言うと波の横幅が広くなります。
音波の1サイクルのサイズが大きいということになりますが、1サイクルが大きいとどういう事が起きるでしょうか。


ミキシングというのは音を混ぜる、うまく重ねていく作業ですので、当然低域の音にも他の音が重なります。

重なったときのサイクルのずれは、高域よりも低域の方が大きな影響を及ぼします

なぜかというと、サイクルが大きいので、ずれてから波が重なるまでの時間が高域より長くなるためです。

このずれている状態を位相が悪いと表現しますが、音が前に出ない、馴染まないという時はこの位相が影響していることが多いです。鳴っている音の要素、個々の音の重なり具合が悪いという事です。

これは混ぜた時だけでなく、単体パートの音の中だけでも出てくる現象です。

簡単に言うと、 低域は位相の影響が大きいので気をつけなければならないし、位相が悪い時の修正も大変だという事です。



ということで、なじみの悪いベースサウンドを馴染ませるのは結構大変です。 


イコライザーやアナログエミュレータ、コンプなど色々やっても根本的な解決を得られないことが多いですね。


それどころかプラグインかけすぎの状態になってしまい、気がつくとどうして良いかわからない状態になってしまいます。



このような時は奥義を使います。苦笑



簡単な方法ですが効果は大きいです。ただし多少セッティングが面倒です。なので奥義と呼んでどうしようもないときに繰り出しています。



方法は単純で、録音されている音を一旦ソロで出力しアナログに戻し、それを再度録音してデジタル化します。


この際に可能であればアナログプリアンプ、アナログイコライザー等を用いて異なる性格の音に変えます

音をアナログ化する際はDAC(Digital to Analog Converter)という回路を通り、逆にデジタル化する時はADC(Analog to Digital Converter)という回路を通ります。これらDAC/ADCだけでも音質や音の傾向を持っており、単純にアナログ~デジタル戻しするだけでも音質は変化します。


聞いた雰囲気が一緒だったとしても、本質的に音が変わりますので、これだけでもかなり改善されるはずです。


出力する際、コンプやマルチバンドコンプはかかった音のままアナログへ出力すると効果的です。


なぜかというと、アナログ出力しデジタルに戻る際の入力レベルが安定するため、ギリギリのレベルでデジタル化することができ、芯の強い音になります。

入力レベルが高い音は前に出やすい音になりますので、混ぜた際に低いボリュームでも聞こえる音になり、混ぜやすくなります


この時マイクプリアンプをライン入力の状態にして音を受けることになりますが、このマイクプリアンプのクオリティは重要なので、できれば質の良いものを使ってください


高額のマイクプリなどがなければ、異なるアプローチとしては、もともと録音したときに使ったプリアンプとは異なるプリアンプを使うことで音の性格が変化し、アンサンブルでの混ざり具合が変わります。

以下のようにオーディオインターフェースでもスタンドアロンで使うことが出来るものがありますので、誰かに借りても良いでしょう。



加えて、アナログ出力した段階でアナログのエフェクトをかけてしまうと、プラグインだけでは作れない音になりますのでベースの存在感がより際立ちます。

ベースの重要性が高い場合は有効です。


アナログイコライザーやアナログコンプレッサー等を持っていれば是非使ってください。



インプットモニターの状態にしてしまえば、音を聞きながらアナログイコライザー、アナログコンプ等の設定を調整することが出来ますので、アンサンブルに混ぜながらアナログエフェクターのセッティングを決められます


レコーディング用のアナログエフェクトが無い場合は、ベース用のペダルエフェクターなどを使ってもなかなか面白い音を作れます。筆者はよく以下のベース定番機器を使ってアナログ段で音を調整してしまいます。プラグインでも同じものがありますが、同じセッティングにしたとしても実物のアナログ機器を使って音を作ったほうが存在感のある音になります


基本的な考え方としては、もともとアンサンブルと馴染みが悪い、相性が悪い音だったベースサウンドへの対策なので、音のキャラクターを変えてしまうというのが目的です。


ですから、結構アナログ段で思い切ったことをやっても問題なく、キャラクターさえ変わっていればなんでもアリです。デジタルに戻して録音した音は、けっこうすんなりと馴染んでしまうことが多いです。

 
ということで、単純に言うと馴染みの悪い音だけアナログ出力して再度録音する。


これだけです。
でも効きます。

ベースに限らず使えますので、困ったときは試してみてください。 

毎回まったくつながりが無くてすいません。思いつきなのでw



さて今回は、録音ネタです。



ギタリストなら誰でも思う、いい感じのギターソロを録る方法です。


今回の話は#009 ボーカル(主役)を前に出す ディレイ編と同じような考え方を使いますので、時間があったらこちらも読んでみてください。



ギターソロを録る場合、どうやって録りますか?


まぁ最近ではLINE6 POD系のアンプシミュレーターを使う方も多いのではないでしょうか。
自宅でゆっくりできますしね。




しかし!




おすすめは、ギターソロだけでも頑張ってアンプを鳴らして録ることです。


家に無かったら、家で鳴らせなかったら是非リハスタなどを使って録音してください。
これにはふたつの意味があります。



一つ目はメンタル的な意味です。



ギターソロは、普通のギター演奏ではいけないのです。


「これでどうだ!」という気合の入った演奏が必要です。
自宅で時間の許す限りテイクを重ねるのもアリですが、筆者的には限られた環境でスパートをかけた演奏の方が好きです。



「リハスタが1時間しかない!1時間でいいギターソロを弾かなければ!」
というメンタルは、ハマれば必ずまったり弾いたギターには出せない緊張感を出します


そして、そういう演奏は抜けます。何もしなくても。




そして二つ目の意味、サウンド的な意味です。


特にハードウェア、プラグイン問わずアンプシミュレーターの音をメインで使っている場合は良い効果をもたらします


ミキシングにおいて、全く同じ音を2トラック入れて再生するとどうなるでしょうか?


基本的には音の大きさが2倍になります。
ま、2トラック分です。
細かい電気的な理論や設定のことはさておき、音が大きくなるという事です。


何がいいたいかというと、同じような音を何本重ねても音が大きくなるだけ、という事です。



楽曲、アンサンブルの中で抜ける、つまり良く聞こえる要素は色々ありますが、単純なのは「目立つ音」であることです。


ギターソロに限りませんが、抜ける音を作るためには、増やす概念ではなく、目立つ概念を持つのが重要です。


ざっくり言うと、シミュレーターを多用してギタートラックをたくさん作ると、使っているアンプの種類や設定は異なっても、結局「同じ音」な訳です。

つまり、バッキング1、バッキング2、リフ、クリーンと来てギターソロもシミュレーターでやってしまうと、ギター全体の音は大きくなってもソロが目立つ、ソロだけ目立つのは難しいという事です。



ソロ以外はシミュレーターで作りこみ、ソロはギターアンプを鳴らす



これだけで結構どんな方法で録音しても抜けるギターソロになります。



この理論を踏まえたうえで、録音方法にもひとひねり入れます。



一般的にギターアンプにマイクを立てる場合、ダイナミックマイクをオンマイクにしてセッティングします。
これはこれでオーケーなのでセオリー通り立ててください。


スピーカーのセンターキャップの淵をマイクセッティングのスタート位置として、音を聞きながら5mm単位くらいで位置を調整します。センターに寄せると高域が出てきますが、やりすぎるとギラつきます。

ギターアンプのキャビネットはネットになっていることが多いので、懐中電灯で照らして位置を確認しましょう。
ネットから1cmくらいの距離でいいと思います。


あと、Marshallのキャビなど、スピーカーユニットが複数ある場合は、耳でひとつづつ聞いてみて、最もいい音がすると思うユニットにマイクを立ててください。4つユニットがあれば、それぞれ違う音がします。


で、
これはこれでよいとして、マイクをもう1本立てます


できれば違う種類のマイク、さらにできればコンデンサーマイクの方が効果がわかりやすいです。


手始めにキャビネットから2m程度離し、左右どちらかに50cm程度離した位置にマイクを立てます。
この50cmは左右でなく高さをずらしてもいいです。


この2本を別トラックで録音し、混ぜます。



2本目の意味はなんでしょうか?



これは、影です

ボーカルを前に出す手法と似ていますが、目立たせたいものを前に出すには、影を作れば良いのです。


2本目のマイクは、距離が離れているため、1本目のマイクより高域の特性が落ちます
同時に出すと、この特性の落ちた音が影になり、自動的に特性の良い1本目が前に出てきます


ギターソロの場合、多くの曲ではバッキングなどより低音を使わないことが多いので、低域がブーミーになりすぎることはあまりないと思います。
ブーミーになる場合は、2本目の低音を削ってください。 



どうでしょう?



まぁ単純な方法なんですが、結構効果はあります。
特にいいギター、いいアンプの時ほど効果は如実です。苦笑



ステップアップテクニックとしては、2本目のマイクをコンデンサーとした時、指向性を無指向性にするといい感じの部屋鳴りが追加されてより臨場感のあるソロになります。ただしこれは、部屋鳴りが良い場合に限るテクニックで、加えて部屋鳴りを聞きながらアンプとマイクの場所を探せるセンスは必要です。

また、録音レベル調整を使って効果を大きくすることが出来ます。
デジタル録音においては、録音レベルをギリギリまで突っ込んだ方が輪郭のはっきりした音になります。1本目のオンマイクはこれで良いのですが、2本目のオフマイクはこれを逆用し、わざと低めの録音レベル設定で録音してしまうのです。できれば、プリアンプはきちんとレベルをとって、デジタル化する部分でレベルを落とすといい感じになります。低めのレベルでデジタル化された場合、さらにぼやっとした音になりますので、1本目と混ぜたときに差の効果が大きくなります。


筆者の場合、ギターのオンマイクはSHURE SM57、SENNHEISER MD421、beyerdynamic TG I50dがのどれかが多いです。オフマイク(2本目)は、NEUMANN U87AiやAudio TechnicaのAT4050なんかが多いです。
どのマイクがいいというものではないので、ギターのサウンドに合わせて聞きながら選びます。




ということで、抜けるギターソロを録る方法でした。
やってみてください。

  

 

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自由気ままに書いているので記事の順番が適当ですいません。

さて今回はトラックの音量調整、その中でもフェーダーのオートメーションについてです。
ボーカルトラックがわかりやすいので例にとって書きますが、そのほかのトラック、楽器でも基本概念は同じなのでそのまま使えます。ギターやキーボード、ドラムでもなんでも大丈夫です。

ボーカルトラックの音作りは終わっている前提で話を進めますので、ご承知置きください。
以下の記事などもご参考に。

さて、コンプレッサー等で整えられたボーカルトラックは多くの場合、オートメーションを書かなくてもボーカルが聞こえる状態になっています。

しかしそれでも聞こえにくい場所が出てくることがあります。

たとえば表現上Aメロなど音程の低い部分で、抑え目の声で歌っている場合などによくあります。
サビのバランスはばっちりなのに、Aメロが良く聞こえないという場合ですね。

このような場合は積極的にオートメーションを使いましょう

ちなみにレコーディング現場では、オートメーションを使うことを「フェーダーを書く」と表現します。
「ボーカルちょっとフェーダー書いてもらえない?」
といわれた場合、
「ボーカルのオートメーション使って音量調整してもらえない?」
という意味になります。


さて、ボーカルのオートメーションですが、ボーカルトラックのフェーダーを直接いじってしまうと、音量が上限していることがわかりやすくなってしまい、聞いていてもフェーダーの動きを感じてしまうことがあります。
こうなると、不自然な感じになってしまい、聞きにくいボーカルトラックになってしまいます。


また、オートメーションを書き込んだトラックは、全体の音量を調整することが困難になります。
フェーダーを手動で調整しても、オートメーションが優先されるため、後からボーカル全体を2dB上げる、といった調整がしにくくなってしまう訳です。


そこで、グループバスとの複合技を使います。

以前の記事で、ボーカルトラックをグループにまとめることを紹介しました。
筆者の場合、ボーカルトラックが1トラックのみ、コーラスやダブリングをしていない場合でも、ボーカルトラックそのものをグループバスに送り、ボーカルグループを作ります。

多くの場合、ボーカルトラックそのものでは特徴的なコンプレッサーやエフェクトなど音質が大きく変わる音作りを行い、ボーカルグループバスの方で音量調整のためのコンプレッサーや、楽曲にあわせるためのイコライザーなど楽曲にマッチングさせるための処理を行います。



この状態のときに、ボーカルの音は出力されるまでに何本のフェーダーを通るでしょう?




そう、3本です。



トラックそのもののフェーダー、ボーカルグループのフェーダー、そしてマスターフェーダーです。


きちんと音が整えられ、マスターフェーダーで全体の特性が調整された、完成状態に近いミックスでは、出力側に近いフェーダーを動かすときほど、その変化がわかりやすいという特性があります。

マスターフェーダーを1dB動かすとすぐにわかりますが、ボーカルトラックのフェーダーを1dB動かしてもあまりわからなかったりするのです。

これは、フェーダーの後に通っているエフェクト、特にコンプレッサーなどの音量調整系エフェクトの影響が大きいのですが、この特性を利用します。 

つまり、ボーカルトラックそのもののフェーダーに対してオートメーションを書くのです。
こうすることで、フェーダーが動いた後にボーカルグループのコンプレッサーやフェーダーを経由するため、オートメーション後の音量が再度整えられ、不自然さを感じにくくなります


加えて、ボーカルグループのフェーダーにはオートメーションが書かれていないため、オートメーション書き込み後にボーカル全体の音量を上下することも簡単に出来ます。


フェーダーのオートメーションは、簡単に言ってしまうとコンプレッサーの動作をフェーダーでやっているだけです。昔オートメーションがなかった時代は、よくSSLのフェーダーを再生しながら動かし、そのままマスターレコーダーに録音、なんてことをしていました。

自分がコンプレッサーになったつもりでオートメーションを書けば、いい感じに仕上がると思いますよ。

  

 

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