- Imagine & Inspire - あなたは、もっといい音でつくれる。

様々なメディアで紹介される「機材の使い方」ではなく、「録音のノウハウ」をレコーディングエンジニアが紹介。大型スタジオではなく、小規模スタジオ、お世辞にも良いとはいえない機材環境で生き抜いたが故に身に着けた、与えられた機材で自分の求める音を出すためのテクニックを、自由気ままに紹介します。 動画がスタンダードになって久しい世の中。想像力を使うことも音楽制作の楽しみという考え方から、基本はテキストでの紹介。どんな音がするのか?自分の環境でどう活用するか?想像する力を、あなたはまだ持っていますか?

ミキシングがほぼ完了した段階で、さらにサビの部分を盛り上げるテクニックです。

サビが盛り上がるかどうかは、かなりアレンジと演奏に依存するので、アレンジと演奏が悪いとなんともなりませんが、ミキシングで盛り上げることはもちろん可能です。


このテクニックを使うには、ミキシングの後にマスタリング工程が入ることが前提になります。


ミキシングによって楽曲の展開を演出することは非常に重要で、プロとアマチュアのミキシングで大きな差が出る部分でもあると思っています。


ただバランスよく綺麗に混ぜるのは慣れるとなんとかなりますが、演出をするにはセンスが必要だからです。



では本題。




マスターフェーダーって動かしますか? 



おおよその場合、0dBで固定されているのではないかと思います。
動くとしても、フェードアウトの曲でフェードアウトするくらいではないかと思います。


このマスターフェーダーを動かして楽曲を演出するというのが、このテクニックです。


よく考えればものすごく単純で簡単な話なのですが、結構盲点であり、かつ、よく効きます。



やり方は簡単です。



まず、マスターフェーダーを-1dBくらいに設定します。
これで、楽曲全体の音量が-1dB下がりますよね。


この状態で、サビの部分だけ0dBに戻すようフェーダーオートメーションを描きます


ポイントは、フェーダーの動きがわからないようにオートメーションを描くことです。


波形を見ながら描くと楽なので、サビの入口の各トラックの波形を見ながらやってみてください。
波形の推移をトランジェントとか言いますが、大方音のアタックの部分から入って小さくなっていく波形です。
このサビの最初の波形の山の部分でフェーダーがあがりきるようにオートメーションを描きます。


急にあがるとバレますので、オートメーションのカーブが90度になるような感じではなく、斜めにあがるようにしてください。


同様に、サビが終わった部分ではフェーダーを下げますが、これも同様に、だんだん下がるように描きます。



さあ聞いてみましょう。



サビ、なんとなく盛り上がって聞こえませんか?


これでも不足するようなら、サビの中の楽器をいくつか選んで同様に1~2dBくらい上げるようフェーダーを描きます


はっきりわかりすぎて不自然な場合は、フェーダーの変化幅を0.5dBくらいにしてみて下さい。


マスターフェーダー、マスターチャンネルへの処理は驚くほど効いてしまうので、変化量を小さくしておくことが重要です。


多少わかりやすくても、マスタリング工程でまたコンプレッサーがかかってきますので、丁度よい感じになります。
ミキシング終了の段階ではやや派手くらいで丁度よいはずです。


と、いうテクニックでした。

こういった楽曲の演出をしていく場合は、VUメーターがあるとやりやすいです。

VUメーター環境を手に入れると、ミキシングがまた楽しくなりますので、是非探してみてください。 

当ブログの一番人気記事は今のところボーカルを前に出す記事なのですが、その続編をひとつ書きたいと思います。

ボーカルを前に出す方法はいくつか書きましたが、大事なことは立体感、というのはご理解いただけたと思います。

レコーディング、音楽制作はイマジネーションなので、どうしたら立体感を出せるか?ということを考えていけば色々ネタを思いつくものです。デジタルレコーディングの良いところは、何回でも試すことができるところなので、なんでもやってみましょう。テープ代はかかりません!

ディレイ編では立体感を出すための影をディレイで作ったわけですが、今回はオフマイクを立てるという技を使ってこの影を作ります。



ボーカルって普通マイク1本で録音していますよね?



これを2本、ないし3本使って録音します。



ただしこの手法を行うにはいくつか条件があるので、列挙します。
あてはまらないものがあれば、使わないほうが良いでしょう。


・ボーカリストの技量が高い
トラックの数が増えますので、録音後の編集が格段に難しくなります。特にピッチ編集はあきらめたほうが身のためです。



・録音する場所の響きが良い、適度に短い残響がある、または響きがほとんどない
オフマイクの音を使っていきますので、部屋の響きを録音することになります。部屋で歌ってみて、響きが綺麗だな、と思える場所でなければこの技は使えません。また、 響きが綺麗でも残響が長い部屋だと後が大変です。



・録音する場所がそこそこ広い

部屋が小さすぎると、オフマイクの効果が薄いのであまり意味がないです。



・そこそこのマイクを複数本持っている
物理的な話ですが、マイク1本だとできません。(笑)また、ダイナミックマイクだと正直厳しいかと思うので、コンデンサーマイクが複数必要です。



さぁどうでしょう。条件をクリアしたら、やってみましょう。




まずは、オンマイクは普通に、いつもどおりセッティングします。



次が重要です。



ボーカリストから最低でも2m以上離れた位置、しかも上下方向も正面から外れた位置に、マイクを設置します。


これも歌ってもらって耳で決めるのが良いですが、はっきりとした音にならない位置の方がいいくらいです。


結果的には結構離れた位置、かつ上方になることが多かったかなと思います。





セッティングはこれだけです。




この2本を混ぜて録音して、リバーブやディレイなどのエフェクトなしで聞いてみましょう。



どうでしょう?


なんか立体感ありませんか?



わかりにくければ、オフマイクのトラックをON/OFFしてみてください。


物理的に考えれば単純な話で、まず、自動的にディレイが付加される効果があります。ボーカリストからの距離が2本のマイクで異なりますので、オフマイクのほうは当然遅れた音になります。


しかも、音質的には近接効果の逆用で低音が少なくなり、正面から外していることで高域成分が欠落した音になっています。


単純に言うと、前の記事ではディレイで作った影を、マイクで作ったということになります。




じゃぁディレイでよかったんじゃない?



ということになりそうですが、ここがポイントです。


綺麗な響きのある部屋が条件に挙がっていたのはこのためで、綺麗な響きがする場所で録った音に、後から加工して作り出した音は結局かなわないのです。写真と一緒です。



この手法に興味が沸いたら、是非自宅だけでなく、リハスタ、しかも広さの異なる部屋を借りてみて、色々試してみてください。部屋の響きを考え出すと、レコーディングは結構楽しくなりますよ。


この技の発展系としては、オフマイクをステレオ、もしくは複数にしていく方法があります。

ステレオにする場合、音を再生するときにセンターから外せるという効果が出るため、1本目のマイクの音をより強くセンターで目立たせることが可能です。



ただ、どんどん増やせばいいかというと、そういうものでもないので気をつけてください。



特に、パート数の多い曲には向きません


マイクの本数を増やすことでどんどん情報量が増えるため、もともと要素が多い楽曲にはあまり向いていないです。後で飽和して聞きにくくなります


生楽器だけとか、アコースティックな感じの曲とか、全体のサウンドとして要素が少ない場合に向いている手法ですね。要素が多い楽曲の場合は、後からコントロールが可能なエフェクトで影を作り出すほうが、後が楽です。


是非色々試してみてください。

 

しばらく間があいてしまいましたが、上級編2です。
これは、これまで説明してきたセオリーとは真逆の行動を取りますので、面白いと思います。

これまで書いてきたように、デジタルレコーディングにおいては、歪まないギリギリまで録音レベルを上げる、というのがセオリーです。簡単に言うと、歪ませない、が大事です。
しかし、これは正確に言うと、デジタル変換時に歪ませない、というのが大事です。

これを理解するには、少し機材の仕組みを理解しないといけません。
マイクの信号はまずマイクプリアンプで増幅されます。
ここが入力レベルの調整という事になります。

次に、アナログ信号をデジタルに変換する、ADC(Analog to Digital Converter)を経由します。
厳密にはここでもレベル調整が可能で、ADCへ入力される信号のレベルを可変することが可能です。

ただし、ほとんどのオーディオインターフェイスはここが一体化されているため、入力段でレベル調整ができるのは、前述したマイクプリアンプのレベル調整のみということがほとんどです。

話を戻すと、歪ませてはいけないのは後段のADC入力レベルであり、前段のマイクプリ入力レベルは必ずしも歪ませてはいけない、という訳ではないのです。

ということで、この2段階調整ができる機材を用意すれば、「マイクプリで歪ませた音」という新しい武器を使うことが出来るようになります。

一般的な自宅環境で実現するにはどうすればよいかというと、別途マイクプリを用意して、マイクプリの後段にオーディオインターフェイスを接続すればこの技を使うことが出来ます。オーディオインターフェイスのマイク入力に接続するとマイクプリを2回経由してしまうため、マイクプリを持たないライン入力に接続するのが良いです。

ちなみに、せっかく別途用意するので音のキャラクターが異なるものを用意するか、グレードの高い著名なマイクプリを用意するほうが発展性があってよいでしょう。ただし、マイクプリ内にデジタル回路を持つものは、一旦デジタル変換された後アナログに戻されて出力になるので、デジタル変換されないで出力できるものを用意したほうがいいでしょう。
また、一部のオーディオインターフェイスは、パソコン接続せずにスタンドアロンで使えるようになっていますので、これを使うのも良いと思います。



で、方法は簡単です。
マイクプリの入力レベル調整で、ちょっと突っ込み気味にレベルを調整します。
PEAKランプなどがあるようであれば、いつもよりも高い頻度で点灯するくらいのレベルに調整します。
その後、オーディオインターフェイス側の入力レベルも監視し、こちらは歪まないレベルになるように、オーディオインターフェイス側のライン入力レベルを調整しましょう。
これだけです。
 
どのような音に対して有効かというと、ずばりドラムのキックとスネアです。
いくらちょっとの歪みとはいえ、歪みは歪みなので、わかりやすい音でやってしまうとすぐに気になります。
たとえばボーカルトラックのように、いかにクリアに録音するかが重要なトラックに使うと、歪み成分が気になって使えない音になってしまいます。

逆に、ドラムなどの音は音のひとつひとつが短く、一瞬少し歪んだくらいではわかりません。
波形を見ると、波形の頭がやや潰れているが、聞いていると感じない程度がベストです。

この歪み成分が音に加えられることによって、音が少し前に出る効果があります。
バスドラムやスネアでやると、普通に綺麗でクリアな音で録音するときよりもややワイルドな感じになり、前に出やすくなります。

ポイントは、歪ませるといっても、少しだけ、です。
聞いて明らかに歪んでいる音だと、よほど狙ってやる場合以外は使えないものになります。

従って、可能であれば録音時から他の楽器と一緒に演奏し、アンサンブルになったときに歪み成分が目立つかどうか、確認しておくと良いと思います。楽器単体の録音でこの技を使おうとすると、アンサンブルにしたときに歪み成分が目立ちすぎるか、もしくは逆に歪み効果が弱すぎるという結果になります。

あと、ベースにも実は使えます。
ベースのトラックは、いかにうまく楽曲に埋めるか、というのが個人的にはテーマです。
かといって、埋まりすぎるとベースラインがわかりにくくなるので、曲によってはこの歪み成分を付加することでやや際の立った音になり、埋まっているがベースラインは聞こえる、という状態を作ることが出来ます。

以上、上級編2でした。
ちょっと機材知識がいる技ですが、これは結構使えますので是非試してみてください。 

このページのトップヘ